第8話 美しい姉と忘れた記憶―戦国時代の兄妹の再会

 永禄四年 四月 沢森城 喜々津御前の居室 沢森政忠

 日差しの差し込む中庭に面した部屋のなかで、姉である喜々津御前と息子の幸若丸、そして妹の雪姫が、3人で遊んでいた。

「義姉上、今少しよろしいでしょうか?」

 俺は深呼吸して声をかける。

「いいですよ。どうぞ」

 との返事を確認して、近くに控えている小姓が障子を開ける。小平太との予行演習は終わっていた。

 中に入ると、20歳前後の女性に10歳前後の女の子(だからお前も子供だってば)がいた。それに小さな男の子が笑いながらじゃれあっている。

「久しいですね、平九郎殿。そうは言っても怪我をしてからですから、十日ぶりくらいでしょうか」

 ものすごい美人。

 というか姉さんなんだから、確か兄貴が生きていれば18だから、ひとつ下で17歳! ? JKやん!

 まったく女子高生には興味がないけど、もし学生の時に出会っていたら、突撃して撃沈してたな。うん。それくらい美人。

 でも17歳には見えない。数えだから、誕生日前だったら16? いやあ恐るべし戦国女子。

「こちらこそ、ご挨拶もできず申し訳ありません。怪我の影響なのか、己の認識と実際の事柄が違う事がありまして、確認している最中にございます」

 もう、面倒くさい。軽い記憶喪失って事で周りを納得させて、既成事実をつくっていこう。

 考えるのに疲れた。

 まあ、頭を打って意識障害とか、なんらかの副作用? が出るのは医学的にもあり得ることだから、一番納得させやすい理由といえば理由なんだよね。

「兄上、私もでしょう?」

 横にいる10歳くらいの女の子が頬をふくらませて顔を向ける。妹の雪姫だ。

 うん、お転婆の匂いがぷんぷん。

 そういえば、前世の妹もどっちかって言うとこっち系だったなあ。弟の千寿丸は現世が明朗快活で前世とは逆系統だったが。

「ごめんごめん、久しぶりだね。雪」

 と、とってつけたように返事をする。

「ふん、だ。あれ……兄上なんか……。ほんとに兄上?」

 げ、何を言い出すんだこいつは。せっかく記憶喪失路線でいこうと決めたのに。兄弟そろってなんて勘がいいんだ!

「雪、平九郎殿は傷がふさがったばっかりなんだから、そんな事言ってはダメですよ」

 とたしなめるように言う義姉。

「だってぇ……」

 と、まだなにか言いたげだが、諦めて口を閉じた。よしよし、それでいい。すると……。

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