第105回 『蝦夷地の石炭と越後、松代、相良の油田。買い占めへの道』(1848/11/27)

 嘉永元年十一月二日(1848/11/27) <次郎左衛門>

 適塾の5人が戻ってきた。

 洪庵先生の体調は問題ないようだけど、毎月の食事と運動の記録は送って貰っている。そしてその5人は、帰郷の喜びを味わわせる暇もなく、信之介のところに問答無用でぶっ込んだ。(公費で勉強してるからね!)

 やっぱり知識レベルの差は出ているようで、五教館大学在学生、五教館卒業生、開明塾卒業生に比べると見劣りしてしまう。それでも優秀な彼らはもの凄い速さで知識を吸収しているので、いずれ同レベルまで到達するだろう。




 さて、収益の話だ。

 椎茸しいたけと塩は、まず倍にしよう。他の物に比べたら利益は少ないけど、ちりも積もればだ。椎茸は倍の四町歩。これで1万両くらいの増収だ。鯨も倍にする。

 これでなんとか月の純貯蓄をプラスにして、期末残高を来年度に繰り越しできる。実際の収益アップは来年度からだけど、ひとまずはOKだ。

 あとは他の有力な商品だな。それから他藩の資源開発も考えなくちゃいけない。

 こうなったら初期投資費用はお慶ちゃんか乾堂さんに出して貰って返そう。出資でもいいかな? 事業計画を相談して。利益は配分しないといけなくなるけど、投資の幅が広がるな。

 むしろ藩外の方はそっちの方がいいかもしれない。

 次は真珠……だけど、ちょっとこれは慎重にやろう。オランダの商人に聞いたら超高価みたいだから、ぼろ儲けできるかと思ったんだけど断られた。一度に扱う量にしては多いらしい。

 大量に販売するとかなり影響がでるようだ。

 さて、石炭だ! 石油も考えないといけないけどね。松前藩へ交渉に向かった者から書状が届いている。本来ならローラー作戦ともいうべき方法で、歩き回って調べないといけないところを、お里がピックアップしてくれている。

 北海道は留萌炭鉱だ。
 
 ここは雨竜郡沼田町と大和田町、そして苫前郡羽幌町の四つの炭鉱が密集している。明治期に発見されるらしいけど、運送手段がないために、鉄道が敷設される昭和までは日の目をみなかったらしい。

 しかーし! 蒸気機関も開発したし、輸送用の汽車を作れば良いのだ。いずれにしても本格的な採掘はまだ先の話だけど、炭鉱は間違いなく基幹産業になるはずだ。

 だって鉄鋼いるしね。それから火力発電所。水戸の斉昭公が蝦夷地の開発を再三進言しているけど、幕府は無視しているよね。これ、やること自体はやぶさかではないんだろうけど、要するに金がないんだろうな。

 ここで松前藩にしっかりと許可をとって金を払えば、まず問題ないだろう。文句言われる筋合いがない。




 拝啓

 時下ますますご清栄の事とお慶び申し上げ候。

 このたび蝦夷地留萌るもいにて、金山(炭鉱)の調べと採掘の権を申し出るべく、松前藩勘定奉行様、ならびに金山奉行様に届け候。

 その後沙汰にて、この先五年の間年銀六貫目(6千匁=約93両)の運上能うならば許すと仰せに候。然れどもこちらは一所(一カ所)にて、沼田、大和田、羽幌の三所となれば十八貫目の運上銀となり候。

 加えて船をつける良きみなとはあれど、羽幌の他二カ所は山中にありて石炭の運びは難しと存じ候。蝦夷地には他に金、銀等の金山かなやまも多くあり候。

 いずれの金山もはじめは定めし運上なれど、採掘の量増えればその運上も増えると仰せに候。

 まずはご報告いたし候間そうそうあいだ(ますので)、よろしく思い見て(ご検討)いただきたく存じ候。

 恐々謹言

 九月一日

 勘定組頭 小塚伝兵衛




「ふむ。年に銀六貫目か。やはりそれぐらいにはなろうな。まあよい。権利さえ押さえておけば良いのだ」

 蝦夷地はもともと松前藩の支配地だったが、19世紀になってロシアの南下を恐れた幕府が天領としていたのだ。それが文政四年(1821年)にほぼ返却された。

 幕府が警戒したところで、どうにもならんだろうに。

 また7年後の安政二年(1855年)には天領になる。それまでも、それからも権利を主張すればいいのだ。幕府はその天領の沿岸警備を仙台・盛岡・弘前・久保田・松前の東北の大藩に割り当てる。会津と庄内の2藩もあとから追加されるのだ。

 なんだろうな、この殿様商売的なやり方。よくよく考えたら、なんで自分の領土でもないのに自前で警備せんといかんのやろうか。長崎も同じやけど。

 まあ長崎は、貿易のうま味があるからましだけどな。もしかすると警備を押しつけられるかもしれないけど、それなら運上金全廃で北海道の利権全部もらおう。

 1855年だから幕府の権威も落ちてるからな。ただし、大村征伐にならんようにせんといかん。ま、なったとしても勝つけどね。

 次! 石油。まずは越後なんだけど、これ、採掘は無理っぽかった。各所ですでに採掘している既得権益者がいて、地元じゃないから食い込むのはかなり厳しい。買って、それを精製して灯油とかガソリンとかにして売ろう。それしかない。

 後は信州松代藩と駿州相良藩だ。松代藩も相良藩も、開発途上という事もあって運上金さえ払えば問題ないらしい。金額も北海道より安い。まあこれは土壇場で変わるかもしれないけどね。

 さーて、まだまだ続くぞ。




 次回 第106話 (仮) 『鍋島直正の憂鬱』

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