第44話 恐怖の謹賀新年

 永禄五年 正月 小佐々城 沢森政忠

 数え十三になった。当主をついではじめての正月だ。小佐々城にて新年の祝いの宴が開かれている。

 最高級せっけん「沢森TSUBAKI」←多分誰も読めないから雰囲気で刻印した。
 
 高級せっけん「沢森NATTA-NE」以下同じ。
 
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 詰め合わせを祝いの品として献上した。俺の他には父が一緒にいる。

 小佐々領程度の距離なら出歩いても問題ないらしい。激しい運動さえしなければ、酒も飲んでいいし、特に禁止されている食べ物もない。

 小佐々様も去年の戦の事もふくめて、親父を労いたいらしかった。酒を酌み交わしながら二人共笑顔だ。

 親族衆としては嫡男の甚八純俊様、次男の甚五郎純吉様(34)、三男の次郎左衛門純定様(31)がいたが、四男の常陸介純久様(29)は体調を崩して席を外していた。

 なんだろう、このイケメン感。これはもう、どうしようもない事なんだろうか? 自分だけは例外であって欲しくない、と切に願うのであった。

 鳥越城の田川惣左衛門隆武様(42)、神浦城の大串小十郎正俊様(39)、など小佐々領南部の国人も来ていた。

 田川様も大串様も、どちらかと言うと水軍の頭領というよりは、地侍のようだった。

 なんだか潮の匂いを感じない。そんなところ? それぞれの家臣なども含めて20名程度の新年の宴だったが、途中で蛎浦の海戦の話になった。

「しかしあれから、もう少しで一年経とうとしているのだな」
 
「左様で。あれで松浦の我らに対する領土欲が明らかになった」。

「平九郎も初陣で大将首とは、わしも驚いたぞ。大したもんだ」。

「いえ、私などは。父が種子島で撃たれ、無我夢中でございました」

 なごやかな宴席が続く。

「おお、来たな舞よ。こっちへ来なさい」。

 ん? 誰だ?

「あいさつなさい。小佐々の譜代、沢森の若当主、平九郎殿だ」

 小佐々様が話しかけている方を見ると、俺と同じ位の女の子が少し照れながら、頭を下げて挨拶してきた。

「で、どうだ舞、平九郎殿は?」

 は? はい?

「はい、とてもりりしく、でも、おやさしそうなお方にございます」

 と姫が言う。

「うむ。そうであろうそうであろう」。

「なんだ舞、何を赤くなっているのだ?」
 
 と父親で俺の叔父である甚八様が言う。

「お祖父様もお父様も意地悪にございます」

 顔を赤くする。単に恥ずかしがり屋なのだろうか。

「どうだ、平九郎。うちの舞は?」

 あははははははははは……。

「は、とても可愛らしゅうございます」

 ! ! ! そ、う、い、う、し、か、な、い、で、しょうが! ! !

 なんなんこれ。まあゆくゆくは、ゆくゆくは仕方ないとしても。も、だよ。まだ早い、絶対早い。十年早い。無理、まじ無理むーりむり。

 なんだパワハラか? 同調圧力か?

 ふと、親父を見る。にやにや×10している。はめやがったなああああああ!

(年賀の挨拶は出なきゃ仕方ないとしても、あんまりだよ)

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