第65話 死闘!葛ノ峠の戦い②

「ええいまだか! まだ宮村城は落ちぬのか?!」

 大村純忠は焦っている。

 謀反と聞いて急いで討伐にやってきたが、正月の戦も癒えていない。兵糧の準備も完全ではないし、続く戦に兵の士気もあまり高くはない。

「申し訳ありませぬ。小峰城、蓮輪はすわ城、ふたつの城から挟撃され、押しては引かれ、引いては押されを繰り返しておりまする」

「おのれ小賢しい」

 純忠は吐き捨てる様に言う。(有馬様のご助勢があれば、ここまで苦労しないものを……)

 

 ■同刻 龍岩城 佐志方杢兵衛

 龍岩城は、北から大刀洗たちあらい城、本城の佐志方城、西に城ノ越城、上村城の五つからなる佐志方城群の中でもっとも標高の高い場所にある城だ。

 ここからなら早岐の瀬戸を挟んで宮村城も見える。

「杢兵衛殿」

 男は話し始める。後藤貴明の家臣、伊万里城主の伊万里純殿だ。

「杢兵衛殿、何度も申し上げますが、我らにお味方いただけぬか。すでに我が殿は武雄を進発し、まもなく到着する。さすれば我が方の優勢は明白」

「……」

 言わんとしている事はわかる。

 戦国の世。強い者につくのは道理。しかし平九郎殿は実直な方。盟を違えるのはしのびない。名を取るか実をとるか。ただ、現状は我らが不利。

「申しあげます!」

「なんだ」

「あれをご覧ください」

 指差したのは早岐瀬戸の方角。目をやると……! 一、二、三……四十隻!

 四十隻もの軍船が早岐瀬戸を南下しているではないか。

 これは……。松浦か!

 ■大串湊 第一連隊長 小田鎮光

「なに? 船がないだと?」

 驚いた。いかに軍船の数が少なかったとは言え、一隻の漁船もないのか?

「は、急ぎ徴用されたようで、全て対岸の川棚方面へ出払っております」

 まいった。これでは支援に向かえぬではないか。

 ここで、船が戻ってくるのを待つべきか? いや、そもそも軍用に徴用された船だ。漁船といえども勝手には戻ってはくるまい。

 では、ここで待っていても渡れる可能性は少ない、か。

「よし、それでは騎兵を先行させ、ついで歩兵、鉄砲、弓と続かせよ。砲兵も続くが合わせる必要はない、着いた部隊毎に小佐々様の部隊と合流し戦闘に参加せよ」

 かなり厳しいが、お願いだ間に合ってくれ。

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