第56話 本当にあった奴隷貿易 姉川六太

 沢森政忠

「は?」

 成金がすっとんきょうな声をあげた。

「は? ではない。いくらだ? と聞いておるのだ」

「ま、まさかお買いになるので?」

「なんだ、お前は人買いではないのか? 誰に売るつもりだったのだ?」

「へえ。南蛮の商人が買うと聞き、やってまいりました」

「何だって? (やっぱり本当だったのか)……わかった。俺が買おう。いくらだ?」

「へ、へえ。では、女の方は少し値が張りますが、三人で二百文ではいかがでしょう?」

 成金はまだ信じられない様子だったが、おどおどした様子で答えた。

「わかった。それ」

 俺は小平太に指示を出し、成金に金を渡す。

 それから……。俺はさらに小平太に指示を出し、二百文を成金に渡した。

「殿様、これは?」

「その男の分だ。あの用心棒のその男に対する態度もそうだが、その方の態度もおよそ人に対するものではなかったようだが……」

「へえ。ではそのように。おい、新しいご主人さまだ」

(ちょうどいいやっかい払いだ。それにしても沢森の殿様は変わっていると聞いたが本当だったな)

 男は状況がよくわからないようだったが、やがて俺の方にやってきた。

「その方、平戸や口之津、豊後や薩摩でも同じ様に売っておるのか?」

 成金に聞く。

「いえ、いえいえ。今回が初めてでございます。ただ、他所でも同じ様に売り買いが行われていると聞きまする」

(そうなのか……。思ったより深刻だな)

「その方、本当に、自ら進んで人の売り買いはやっていないんだな?」

「も、もちろんです」(と、言っておこう)

「よし、それならば、南蛮商人には売らずに、俺のところに連れて参れ。俺が買う」

「かしこまりました。それではそのようにいたしまする。ただ……。あまり大きくなさらない方がよろしいかと」

「どういう事だ?」

「いえ、お気になさらず。それでは私はこれにて」

(どういう事だ? ……まあ、確かに偽善者かもしれない。俺がここで四人を救ったところで、何も変わりはしないだろう。でも、あの状況で見て見ぬふりは領主として、いや、人として出来なかったんだ!)

「名前は?」

「六太。姉川六太」

 やっぱり名字があった。

 俺は四人を馬車に誘い、城に戻った。

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