沢森政忠
「は?」
成金がすっとんきょうな声をあげた。
「は? ではない。いくらだ? と聞いておるのだ」
「ま、まさかお買いになるので?」
「なんだ、お前は人買いではないのか? 誰に売るつもりだったのだ?」
「へえ。南蛮の商人が買うと聞き、やってまいりました」
「何だって? (やっぱり本当だったのか)……わかった。俺が買おう。いくらだ?」
「へ、へえ。では、女の方は少し値が張りますが、三人で二百文ではいかがでしょう?」
成金はまだ信じられない様子だったが、おどおどした様子で答えた。
「わかった。それ」
俺は小平太に指示を出し、成金に金を渡す。
それから……。俺はさらに小平太に指示を出し、二百文を成金に渡した。
「殿様、これは?」
「その男の分だ。あの用心棒のその男に対する態度もそうだが、その方の態度もおよそ人に対するものではなかったようだが……」
「へえ。ではそのように。おい、新しいご主人さまだ」
(ちょうどいいやっかい払いだ。それにしても沢森の殿様は変わっていると聞いたが本当だったな)
男は状況がよくわからないようだったが、やがて俺の方にやってきた。
「その方、平戸や口之津、豊後や薩摩でも同じ様に売っておるのか?」
成金に聞く。
「いえ、いえいえ。今回が初めてでございます。ただ、他所でも同じ様に売り買いが行われていると聞きまする」
(そうなのか……。思ったより深刻だな)
「その方、本当に、自ら進んで人の売り買いはやっていないんだな?」
「も、もちろんです」(と、言っておこう)
「よし、それならば、南蛮商人には売らずに、俺のところに連れて参れ。俺が買う」
「かしこまりました。それではそのようにいたしまする。ただ……。あまり大きくなさらない方がよろしいかと」
「どういう事だ?」
「いえ、お気になさらず。それでは私はこれにて」
(どういう事だ? ……まあ、確かに偽善者かもしれない。俺がここで四人を救ったところで、何も変わりはしないだろう。でも、あの状況で見て見ぬふりは領主として、いや、人として出来なかったんだ!)
「名前は?」
「六太。姉川六太」
やっぱり名字があった。
俺は四人を馬車に誘い、城に戻った。
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