第93話 露見! 隠し金山

 永禄七年 十月 龍造寺の須古城侵攻の数日前 小佐々城 <純正>

「弾正大弼だいひつ殿、これは一体いかなる事ですかな?」

 使者の一瀬栄正ひでまさが言う。

「どうもこうも、ごらんのとおりにございます」

 大串の隠し金山が大村純忠にみつかった。

 もともと領内にあったとは言え、雪浦村の幸物郷と大村純忠の大串村の鳥加郷は隣接している。鳥加郷といえば言えなくもない、微妙な場所なのだ。だから、隠していたのか。

(千方! なんで見つかったの? しかも純忠に!)

(申し訳ありません。監視が倒されておりました)

(倒? え? 千方の手の者を? そいつらも忍び?)

(はい。命に別状はありませぬが、眠らされておりました)

(味方に忍びだと? もういい加減、ちょっと我慢の限界だぞ)

「ご覧のとおりとは? お認めになるのですか?」

「認めるもなにも、確かに鉱山はございますが、別にやましい事ではありません。どこの戦国大名も、鉱山の一つや二つ持っております。それに大村様の所領で採掘はしておりませぬ」

「なな! 大串村の鳥加郷で採掘をしている、との証言もあるのですぞ」

「何を根拠に。坑道の入り口は我が所領の雪浦村の幸物郷にございます。敵の目を欺くため隠しておりましたが、まさか味方である我々に草の者を放っておいでとは。遺憾にございますな」

「忍びなど、我らは放っておりませぬ。言いがかりを」

 なにをしらじらしい。

「おほん。それで、いったいどうなさるおつもりですか?」

  栄正は言う。

「なにがでござるか?」

 鼻くそほじりたいな。

「金の金山かなやまにござる。されば、我が殿は接収する事をお望みにござる。まあ、わが領の金山にござるから、接収もなにもないのですがね。いま行い治む(管理している)弾正大弼どのにも筋を通しておきませぬと」

 俺は固まってしまった。あまりの事に驚きを隠せない。

「いかがなされた?」

 はあ――まじでため息がでる。

「一瀬殿、そなたは大きな勘違いを二つしておる」

「勘違いとは?」

「まず一つは、先ほども申した様に、そもそも幸物の金山は我々の物にございますれば、渡す道理も渡す気もござらん」

 な! !

 一瀬の顔がひきつる。

「もう一つは、昨年の戦で我らは、民部大輔たいふ様をお助けするために、親族衆三人の命を失った。それはまだいい、盟友を守って死ぬのなら武門の誉れ。義父上も義理の叔父達も、あの世で喜んでおろう」

 身構えながら聞いている一瀬に対して、俺は続ける。

「しかして我らは、逃亡した奴らの地を接収して治めた。されどその後、民部大輔様は宮の村を返せ、と仰せられた」

 深呼吸して、さらに続ける。

「俺は考えた。考えに考えた。そして、いかなる理由があろうと、十分理不尽な事だと思ったが、父祖の代から続く盟を終わらせる事はせず、お返しいたした。にも拘らず、この仕打はなんだ? 我らとて、決して容易く手に入れたわけではないのだぞ」

 俺は少し興奮していたのだろう。

「お帰りくだされ。そして、そのままを民部大輔様にお伝えください」

 一瀬はまだなにか言いたげだったが、半ば強制的に帰らせた。

「殿、良かったのですか? 今はまだ大村を敵にまわす時期ではないと思いますが」

 別件で登城していたもく兵衛がたずねる。

「よいのだ。もうそろそろ頃合いだ。それにいずれ、向こうからわびを入れてくるはずだ」

 俺は深く息を吸い、吐いてから、ニヤリと笑って答えた。

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