第656話 『対スペイン戦の反省と軍事改革と再編成』(1578/8/12) 

 天正七年七月九日(1578/8/12) 

 純正はマニラにて戦勝の祝賀会を行った。

 本土に戻ってからもっと盛大な祝賀会があるだろうが、全員を連れて帰るわけにはいかない。そこでマニラに残る艦隊と陸軍のために開いたのだ。捕虜も同じである。

 捕虜収容所はスペイン戦の前から用意され、合計1,213名の捕虜が収容された。純正は貴重な労働力である捕虜を虐待するわけではなく、極力自軍の将兵と同じように扱ったのだ。

 収容所では三食を与えるのは当然として、規定の労働をすれば給与を支払った。小佐々軍と同じく、階級を照らし合わせて支払ったのだ。もちろん足かせやムチなどは使用しない。

 その給料で酒を買ったりお菓子を買ったりできるようにした。図書館や遊技場、運動場も用意して作業効率を上げたのだ。




 ■諫早城

「見よ、これがわれらの本拠地だ」

 マニラでの祝賀会を終えた一行は、台湾、琉球をへて長崎港に到着した。その後長蛇の列となり諫早へ向かい、再び祝賀会を行ったのだ。純正の帰りを歓迎する領民で街道があふれ返る。

「なんだこれは? なんだこの人の多さは! イスパニアの、マドリードの比ではないぞ!」

 当時イスパニア帝国の首都であるマドリードの人口は6万弱、史実ではこれから増えていくのだが、現時点で諫早の人口は京都に匹敵する人口を擁していた。

 フアンにゴイチ、パブロの三人は純正に随行し城下町の繁栄を目の当たりにしたのだ。

(これは、誰が言ったかわからぬが、黄色い猿などとんでもない。野蛮どころか、れっきとした文明国ではないか!)

 キリスト教を信じない者=野蛮で下等な民族である、というこれまでの教えは間違っていたのだ。




 ■翌日 諫早城 軍議

「お、御屋形様! こやつらは一体! ?」

 直茂が立ち上がり様に叫んだ。

「案ずるでない。降伏したイスパニアの士官じゃ。武装も解除しておるし、何もできまい」

 純正は笑いながら三人を紹介する。三人は深々と礼をするが、出席した面々は驚きを隠せない。当然である。敵国の、しかも降伏した士官に軍議を見せるなど、考えられないからだ。

「まあいい。通訳には言葉を選んで訳させるゆえ、問題なかろう。それに知れたところで何の障りもないだろう」

 あはははは、と純正は笑って議題を話した。

 確かにこの軍議の内容を三人が知ったところでどうにもならない。本国に知らせるにも手段がないし、あるとすれば北条経由だが、その北条にたどり着くにも至難の業だ。

「上杉戦の反省を完全に克服しないまま、イスパニアとの戦となった。これは今後の課題であるから、今いかにして改善するはかりたい」

 北条との戦いは実際に戦闘する前に停戦となった。

 上杉戦は陸上戦、海上戦ともに広範囲にわたり、改善すべき点が多々あったのだ。今回のスペイン戦では露呈しなかったものの、早急に改善しなければならない事は多い。

「陸海軍ともに、兵をいかに速く多く、運用するか。いかに連携して作戦行動をするかが重要な事が露呈した」

 全閣僚が純正を見る。

 水陸同時作戦や、陸海軍の統合運用など、理屈はわかっている。しかしそれには、越えなければならない重要な壁があった。

 技術だ。

 連絡・通信手段に関しては、はっきり言って電信の登場を待つしかない。しかも遠距離になればなるほど、難しい。

 電気にしたって摩擦による静電気くらいしか純正には知識がないのだ。どのようにして電気が発生し、どのように貯めて、それをどう通信の手段に使うか? 具体的な方法など知るはずがない。雷管にしても同じだ。

 雷管や雷こうという言葉を知っていたり、扱いにくい危険なニトログリセリンがダイナマイトの原料だと知っているくらいだ。具体的な事は何も知らない。

 電気に関しても雷管に関しても蒸気機関に関しても、あと一歩なのだ。揚陸艦にしても、現在よく見るような形状の揚陸艦は、出現したのは第一次大戦から第二次大戦頃だ。

 300年~400年先の時代だ。

「海軍省、七十四門戦列艦と同程度の艦で、運用にはどの程度の人員が必要で何人輸送可能だ?」

 海軍大臣の深堀純賢が答える。

「は。運用だけであれば……それでも百名程度は要るかと存じます。ただ、以前から御屋形様が仰せの輸送艦であれば、先日試作の艦が竣工しゅんこういたしましてございます」

「おお! できたか!」

「は。戦列艦の逆をいく設計思考にございますが、目的が戦闘ではなく輸送ゆえ、船体は丸みをおびており、広い船底を持つようにして大量の貨物や兵を輸送能います。その反面、機動性や速度を犠牲にしておりますゆえ、その点はご理解ください」

 マニラガレオンのような船体なのだろう。

「ただし、遠洋を航海せず、沿岸部における近距離の輸送であれば千石船で事足ります。一隻でおおよそ百五十人から二百人は運べましょう」

「あいわかった。では予算にかけるゆえ、内地および今後は南方における人員輸送も増えるであろうから、各港にそれぞれ何隻必要なのかを算出せよ」

「ははっ」

 沿岸部での航海なら在来工法の千石船でも問題はない。ジャンク船などは明は無理だが琉球に聞いて建造は可能だろう。

「また、これも以前から御屋形様が仰せの特殊な艦艇なのですが、その……『揚陸艦』なるものは海軍工しょうで研究を重ねてはおりますが、今のところは無理かと存じます」

「うむ」

 だろうね、という感じで純正がうなずく。

「ただ今のわが海軍の船は、当たり前ですが木で造られ、帆を使って風の力で進む仕組みでございます。さらに南蛮渡来のこれらの船は、深い海を長距離航海することに適しております。逆に浅い海や河口に上陸するためのつくりではありません。座礁してしまいます」

 うむ、と一応聞いている純正。当然だ。

「もし、例えば砂浜に乗り上げて兵を降ろすのならば、ただそれだけならば、できなくもないでしょうが、それはいわゆるわざと座礁させるようなものです。突飛な発想ですが鋼で船を覆い、艦首に扉をつけ開閉式にしても、船を安定させ沈まぬ仕組みが在り、そしてさらに後進や前進を自由自在に行えれば……されど、どれもこれも夢物語にすぎませぬ」

「うむ。あい分かった。さらなる技術の改良や発展が要るということだな」

「は」

 その後、例の如く、様々な議題が話された。

 気球・機雷・電気・電信・ガス灯・石炭・石油……。ため息がでる純正であった。




 次回 第657話 (仮)『落胆あれば喜びあり』

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