弘化二年七月十九日(1845/8/21) 次郎邸 <次郎左衛門>
さて、製鉄のめどはたってきた。多分、あと2~3年でカノン砲が作れるだろう。その後はペクサン砲だな。それから後はいろいろあるが、元込め施条式が主流になる。
アームストロング砲だ。
ペリー来航までには無理かもしれないが、ペクサン砲はペクサン著の『フランス海軍の実施した新型兵器についての実験』がオランダ語に訳されて輸入されている。
アームストロング砲は、改良型を薩英戦争までにはつくろう。
小銃の方もライフリングの問題は解決できたから、改良を行って、紙|薬莢《やっきょう》をつくってドライゼ銃の製造に移る。紙薬莢と機関部が問題だが、これも2~3年でなんとかなるかな?
頼むぞ信之介、久やん。
その次にジャスポー銃、そして金属薬莢のグラース銃(もしくはスナイドル銃)、最後は(一応ね)連発のスペンサー銃までいきたい。
戦争せずにソフトランディングで開国して、インフレもなく、戊辰もなくゆるやかーに行くのが目的だけど、最悪の目処として戊辰戦争までにはスペンサー銃を量産化する。
はあ……金が足りんなあ。
信之介が二人欲しい。蒸気機関も蒸気船も、汽車も冷蔵庫も(あ!)写真機もガラスも電信電話も、あああああああああ、まじ全てが足りん。
・石けんと椎茸収益(13万3,562両)
・真珠収益(778両)
・捕鯨収益……未定
・塩(4,000両)
ソルベイなんとかは高炉がいるって話やったろ? じゃあ軽く1万両はいるよな? いやいや研究開発費もあわせたら2万両はくだらんかもしれん。
石けんやガラスが量産できても……回収するのは数年先だよな。あと……冷蔵庫はどうなったんだ? 原料の硝石が大量にいるっていってたな。
硝石は各村で密かに作っているけど、一ヶ村分くらい必要なのか?
火薬1kgを作るのに木炭の粉が150gに硝石が750g、硫黄が100g必要だ。1トンでその1,000倍かかる。
硫黄11トン、硝石が82.5トン、木炭16.5トン。これで火薬110トンが生産できる計算なんだけど、そうなると硝石が82.5トン必要になる。
要するに、2,750トンの硝石丘が必要って事だ。
1mに積み上げた硝石丘で、必要な坪数=1,617.65平方メートル×0.3025坪/平方メートル≈489.26坪。
だから一ヶ村につき13坪の硝石丘を製造している。火薬はどう考えても必需品。他藩から買うわけにはいかないからだ。じゃあ、これだけあれば、冷蔵庫つくれるか?
■精煉方 理化学・工学研究所
「ん? なんだこれ?」
信之介は開発依頼書と書かれた書類を眺めた。
「コカイン? ……麻薬か! あ、いや……一之進か。じゃあ麻酔かなんかだな? うーんと、原料のコカの葉っぱはあるんだろうか。なんか、いろいろ育ててたからあるんだろうな。他にも材料がいるから……」
太田和村の屋敷では、狭いながらも薬草を育てていた。
それが大村の城下に移り住んでからは、一之進の薬草園はかなりの広さとなっている。薬草、いわゆる草っぽいものから、木々も含めたものまで多彩である。
その中にコカの木もあった。使えるものは親でも使うとはよく言ったもので、高島秋帆の会所調役としてのコネを、十二分に使って様々なものを輸入したのだ。
コカの葉とその木もそうである。
「えーっとなになに……?」
信之介は添えられた文書に目を通して、製造法を確認する。この辺は薬物で、化学物質ではあるが、医者の一之進の方が詳しかったりもする。
もちろん、完全ではない。
コカイン原料のコカノキは主にコロンビアやボリビアなどで栽培され、現地農民が手作業で葉をむしって袋詰めする。
作業場に集められたコカの葉は細かく破砕され、溶媒となる石油類に浸して|撹拌《かくはん》し、麻薬成分を溶出させる。
これに希硫酸を混ぜた後、アルカリで中和し、上澄みを捨て、沈殿物を集めて乾燥させ、コカ・ペーストが製造される。
コカ・ペーストを酸で処理し、過マンガン酸カリウムで不純物を取り除き、濾過してコカイン濃度を高め、精製したものがコカインである。
「うーん……まあ、断片的ではあるが、できそうだな。ん? 石油! ? 無理やっか! 日本に石油なんてないやろ? あったか?」
信之介は急いでお里に聞きに行った。
新潟、秋田に出るらしいが、少量のようだ。買えるのか?
■大砲鋳造方
6 回目の操業でできた核鋳砲(口径10.3cm、長さ106cm)の試射を行った。
初回と同じく、火薬3.38kgを装填したところで砲身が破裂した。検査の結果は鉄の硬軟は均等とはいえないが、前回と比較するとわずかに改良された。
次回 第70話 『石油は越後か? そして激動の時代へ』
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