第895話 『大日本帝国成立と組閣人事』

 慶長五年九月一日(1600年10月7日) 諫早

「皆、そういうわけで、新しきこの陣容で肥前国……いや、大日本帝国を切り盛りしていこうかと考えている。異論ある者は申し出よ」

 秋の澄み渡った空気が、新しい時代の到来を告げているかのようである。

 織田信長との会談を経て、国内の最後の懸念を払拭した純正は、この日をもって新たな国家体制の樹立を内外に宣言した。

 国名は、『大日本帝国』。

 天皇を国の象徴として尊び、祭祀さいしつかさどっていただく基本方針は変えない。

 しかし政治、経済、軍事、外交の全ての実権を中央政府に集約させた、絶対的な中央集権国家の誕生である。

「子細(異議)なし」

「同心(賛成)にございます」

 既存の閣僚からは誰一人反対意見は出ない。

 首都は肥前国の首都であった諫早とした。

 京都や大坂が地政学的な中心であるのは間違いない。

 ただし、新国家が肥前国の技術と官僚機構を基盤としている以上、中枢機能は現状維持とした。

 純正はまず信長を相談役として閣僚に入れたが、信長の意向をくみ、あくまでも裏方としてである。

 既存の肥前国の閣僚に加え、旧大日本国の閣僚はそのまま起用し、諫早に留学経験がある者や人材を登用した。

 あわせて、内閣戦略会議室に曽根虎盛と武藤喜兵衛昌幸、嫡男の源三郎信之、次男の源二郎信繁(幸村)が加わっている。

 会議衆は10名となった。


 ■1600年時点における内閣構成

 財務省

  * 大臣:太田屋弥市

  * 副大臣:羽柴秀吉

  * 次官:蒲生氏郷

 陸軍省

  * 大臣:波多隆

  * 副大臣:堀秀政(工学・土木工学担当)

  * 次官:津田信澄

 海軍省

  * 大臣:長崎甚左衛門純景

  * 副大臣:九鬼嘉隆

  * 次官:九鬼澄隆

  * 海軍技術局長: 生駒一正

 司法省

  * 大臣: 佐志方さしかた善芳 

  * 次官:松浦光

 外務省

  * 大臣:太田和利三郎政直

  * 次官:高山ジョアン太郎右衛門えもん(語学・外交実績)

 内務省

  * 大臣:太田小兵太利行

  * 次官:小岐須盛経

 文部省

 大臣:上泉喜兵衛延利

  * 次官:稲沢貞昌

  * 語学教育局長:松井康之(語学・教育学)

  * 理学局長:毛屋武久(物理学・化学)

  * 天文局長:川尻秀長(天文学)

  * 建築学局長:可児才蔵(建築学)

 農林水産省

  * 大臣:波多重

  * 本庁局長:つくだ十成(農学)

  * 水産庁長官:奥田直政(生物学)

 国土交通省

  * 大臣:遠藤千右衛門

  * 次官:神保春茂

 情報省

  * 大臣:藤原千方

  * 副大臣:空閑三河守

  * 次官:牲川義清

 経済産業省

  * 大臣:岡甚右衛門

  * 次官:芝山秀時

 厚生労働省 

  * 大臣:東玄甫

  * 医務局長:真木島昭光(医学)

  * 薬事局長:平手汎秀(薬学)

  * 次官:吉田兼宗

 通信省

  * 大臣:本多正信

  * 次官:安藤重信

  * 伝達制度局長:内藤清成

 領土安全保障省

  * 大臣:赤塚源太左衛門尉真賢

  * 次官:鷲見保義

  * 情報分析局長:十市忠之


 かくして、大日本帝国の骨格が定まった。

 省庁の細分化は近代国家としての機能性を追求した結果であり、各分野の専門家がその能力を最大限に発揮できる体制である。

 だが、組閣完了はあくまでも始まりに過ぎない。

 組閣を終えた純正の視線は、諫早の執務室からはるか彼方に向けられていた。

 山積する国内の復興とインフラ整備。

 オランダのフレデリックと交わした『世界技術協力機構』の設立。

 世界政府、世界連邦を目指しての新たな船出であった。


「申し上げます!」

「何事か?」

 近習が息を切らせて書状を持ってきた。

「安房県知事、里見佐馬頭さまのかみ(義重)様よりの書状にございます」

「見せよ!」

 何事かと思い、純正は何か緊急事態が起こったのかと受け取った書状を読む。


 急度申し上げ候(↓超訳下です↓)

 ずは新国家並びに新政府御樹立の儀、目出度めでたく存じ奉り候。

 しかれども、かかる慶事の席にて申し上げ難き儀に候えども、一言申し述べたく候。

 去る頃、吉原の津より肥前国関東総督府、安房国館山へ御移転の由承り候。

 某は勿論もちろん領内の者共も大いによろこび候。

 関八州の要として人を集め金子を調え、津を整え町場を取り立て申し候。

 然れども、此度こたび新たに北条の旧領を加えたる関東地方総督府を江戸に構えらるる由、風聞つかまつり候。

 これにては領民に面目立ち申さず候。

 江戸はいまだ未開の地に候。

 然れば新たに彼の地を取り立て候より、当館山を一層整え仕り、関東一円を統べ、東まわり海路をいよいよ栄えせしめ候よう、尽力仕りたく存じ候。

 何卒なにとぞ御再考賜りますよう、伏して御願い申し上げ候。

 恐惶きょうこう謹言

 里見佐馬頭義重

 関白殿下

 恐惶謹言

 【超訳】

 ちょ、殿下! マジで急いで言いたいことがあるんすよ!

 まずは、新しい国と政府の立ち上げ、マジでおめでとうございます! パねえっす!

 ……と、こんなおめでたいムードにみずすようで超言いにくいんすけど、1個だけいいすか?

 こないだ、総督府を吉原湊からオレんとこの館山に移すって話、決まりましたよね?

 オレも領民も『マジか! キターッ!』ってブチ上がって、『よっしゃ、ここを関東の中心にすんぞ!』ってなったんです。人とか金とか必死でかき集めて、港とか街とかガチで整備してた真っ最中だったんすよ!

 なのに!

 なんかウワサで聞いたんすけど、今度は江戸に新しい総督府を作るってマジすか! ?

 それじゃオレ、領民に顔向けできないっすよ!

 だって江戸とか、まだ何もないただの湿地じゃないすか。

 あんなド田舎をゼロから開発するより、ウチの館山をもっとレベルアップさせたほうがいいですよ! 関東を完全にシメて、海運ルートもガンガンもうかるように、オレはマジで頑張りたいんすよ!

 なんで、マジで! ガチで! お願いだからもう1回考え直してください!

 土下座してお願いします!

 【超訳ここまで】


「何だ、これ?」

如何いかがした?」

 信長が書状をのぞき込んだので、純正はため息をついて渡して見せる。

「いや、思い懸けては(予想していた)いたが、関東の総督府の場所でな。安房の館山を考えていたが、先々を考えれば江戸が良いと思って変えたのよ。それでこれが来た」

「然もありなん。そりゃ平九郎、お前も悪いぞ」

 信長は、まったく、という顔をしている。

「この上は江戸に総督府をおいたとしても、館山が栄える、今よりさらに栄えると思わせ、真に成るようせねばならんぞ。依怙贔屓えこひいきをせずにだ」

「……」

 反乱鎮圧に時間はかからないと踏んでいた純正であったが、戦時体制において北条を見据えて、房総半島の館山を拠点に考えていたのである。

 肥前国併合を宣言してから半年。

 わずか半年であっけなく瓦解したため、館山への今以上の予算をはじめとしたリソースの投下は優先事項ではなくなったのだ。

 そうは言っても、君主たるもの朝令暮改は良くもあり、悪くもある。

 この場合は信長の言うとおり悪い方だ。

「なるほど。要するにおっさんは、館山第一ではないが、今より館山を栄えさせる方法を考え、納得させねばならん。こう言いたいのだな?」

「そのとおりだ。まあ踏み潰してもかまわんが、そういうしこりは後々面倒になるぞ」

 信長の朝令暮改が家臣の不信感と不興をかった記憶は純正にはない。

 それに発言は的を射ている。


 佐馬頭の言もっともにて、程なく日を決めて館山に行くとする――。


 純正は短く書状をしたためて、里見義重のもとへ送った。


 次回予告 第896話 (仮)『館山と新旧』 

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