第1話 異世界への扉〜夢か現実か、絡み合う運命〜

歴史改変は悪だけど、死ぬのはいやです。

 ふと目を覚ますと、板が張り合わせてある天井が見えた。黒い、そして茶色、ススなのだろうか。見覚えがあるような、ないような。

 似て非なるもの、ということだろう。木造の日本家屋の天井のようなもの。そして懐かしい潮風と牧歌的な独特の香り。古い木の香りとでも言うのだろうか。

「あ痛!!」

 起き上がろうとすると右の額に激痛が走り、思わず手で押さえる。麻布がぐるぐる巻きになっていて、手を見るとうっすらと血がにじんでいる。

(なんだどうした? 一体何があった?)

 そしてなぜか体が軽い。

 前を見た。ふすまがある。まあこれは田舎の実家にもあったから問題ない。いや、あるか。実家なんて何年も帰っていない。床は板張り。

 右には板戸があって、後ろには壁(土壁? なんの壁だろう?)に掛け軸があった。戸は開けっ放しで外には庭があり、海が見える。

 木もある。何の木だろう? 花は咲いていない。……典型的な古い日本家屋だ。

「お目覚めになりましたか?」

 女の人の声が聞こえる。声が聞こえる方を見ると、20代後半くらいの女性がいた。

 着物を着ている。(うわ、着物だ)が第一印象。

 顔や容姿や年齢、というより、着物をきていることに驚いた。着物女性なんて数えるくらいしか見たことないし、婆ちゃんの普段着でさえ洋服だった。

 女性は部屋に入ってきて正座したあと、小さめのたらいを枕元において包帯を取り替えようとする。

「あ、いいですいいです。自分でやります」

 そう言って自分でやろうとしたが、なかなか上手くいかない。ズレるのだ。仕方なくやってもらう。こういうのは看護師さんにしかやってもらった事がない。

「若様、本当にもうお加減はよろしいのですか? 以前と少し様子が違うようですが……」

 そう言うと女性は器用な手つきで包帯を外して、手ぬぐいを濡らして額をぬぐい、新しい物を巻いてくれた。……ん?

 若様? なんだそれは? あれ? 手が小さい。なんだか肌艶もいい。足を見る。……体が小さい! 子供か! いやいやいや、ありえん。まてまて、思い出せ。

 よくある異世界転生やタイムスリップじゃあるまいし。えーっと、……だめだ考えがまとまらん。

 夢か? いや、夢だとしたら妙にリアルだ。昔、現実はカラーで夢は白黒だという話を聞いたことがある。そして、夢には痛覚がない、と。

 さっきズキッと痛みがしたし、紛れもなくカラーだ。

 思い出せ、思い出せ。

 たしか俺は、やっと取れた有給を使って地元に帰ってきていたんだ。

 なぜなのかはわからない。地元でなにかやろうとしていた訳でもない。ただ、なんとなく帰省したのだ。そして天気が良かった。

 古いけど、なぜだか買い替えられない車に乗って海岸線をドライブしていた。そして港からまっすぐ山頂に伸びる坂道を登って、中腹の神社のところまできた。

 そこから右折して、グーグルマップのストリートビューにも載ってない狭い道を車で入っていったんだ。そしてさらに右折して……何を探していたかと言うと、城跡だ。

 大昔、いつだったか? 子供の頃、夏休みの自由研究をしていた時だ。

 戦国時代の地元の土豪の城を調べた事があった。当時、発売されたばかりの『写ルンです』を持って地元の城跡や史跡をまわった。

 10ヶ所? 20ヶ所? 結構まわったはずだ。

 写真を撮りつつ、図書館で調べた文献をもとに地図を描いてまとめた記憶がある。

 おい、なんだかリアルに思い出してきたぞ。そしてそこに、何十年かぶりにその場所に行ったんだ。よくある史跡や整備された城跡公園なんかじゃない。

 遠目で見ると、いや近づいてみても、よくよく注意しないとそこが城なのかどうかすらわからない。もちろん史跡によくある案内表示や、歴史を示す記念碑などもない。

 マイナーもマイナーだ。当然駐車場もない。

 ギリギリいけるところまで車で行って、残りは徒歩だ。周りは木々。うっそうと茂った雑木林を抜け、周りは土と石と木と木漏れ日。

 やっと少しだけ、ほんの少しだけ開けた場所に来た。

 大きな木がある。その木だけがやけに目立つ大きさだった。子供ならば、トムソーヤの冒険みたいに登って基地でも作れるだろうか? 

 そして……。なぜだか知らないが、俺はその木に登ったんだ。その場所からでも木々の隙間から海が見え、抜群の景色だったのに。

 登って、登って、注意深く登ったのに足を滑らせたのだ。大人の体重には耐えられなかったのかもしれない。

 ズキッ!

 また頭に痛みが走った。しかしなぜだ? 足を滑らせて転落したなら、下は土でも打ちどころが悪ければ死んでいるかもしれない高さだ。

 俺は死んだのか? いや、生きている。ではなぜ泥まみれでもなく、しかも家の中にいるのだ?

 まさか、本当に異世界転生でもしたのだろうか? 信じられない。しかし、考えても結論がでない。意を決して目の前の女性に聞いてみる。

 その答えは、俺が想像もしなかったものだった。

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