大村

転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く

第480話 『鋼鉄の恫喝(どうかつ)』

慶応五(明治二)年六月十一日(1869年7月19日) 大坂城 ――発 天保山台場守備隊長 宛 大阪城代 本日巳刻沖合に大村軍艦十数隻現る。 中黒旗なし日章旗と藩旗のみ。 意図不明指示を乞う―― 大坂城代の牧野貞直は、天保山台場からの電信を受...
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第479話 『狼煙を上げよ』

慶応五(明治二)年六月八日(1869年7月16日) ――発 次郎 宛 岩倉様 夏草に 露と消えなむ 古き世の 驕おごりを知らで 身を滅ぼすかな―― このところ、世の移ろい真に急にて、心穏やかならぬ日々にございます。 そもそも人の性(さが)と...
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第478話 『慶喜の王手』 

慶応五(明治二)年六月七日(1869年7月15日) 夕刻 京都 小松帯刀邸「小松さん、左衛門佐殿の、いや、大村家中は一体何を考えているのか。さっぱり分からん。薩摩の考えはどうですか?」 木戸孝允は苛立ちを隠さずに太ももを叩いた。 正面の小松...
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第477話 『最後通牒』

慶応五(明治二)年六月七日(1869年7月15日) 京都 貴族院 やべえ、言い過ぎたか……。 いや、恐れながらって言ったし、議会じゃないからオレが発言しても問題ないはずだ。 殿に迷惑かけたらいかんけど、ここで言わないとズルズルいってしまう。...
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第476話 『天動』

慶応五(明治二)年六月七日(1869年7月15日) 京都 貴族院 伊達宗城による『済衆議会』の結成宣言は、議会を新たな局面へと移行させた。 4つの政党がそれぞれの思惑を抱えてにらみ合い、議場は完全に行き詰まっていたのだ。 勘定奉行の選出は振...
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第475話 『鼎立』

慶応五(明治二)年六月一日(1869年7月9日) 京都 貴族院 発議以来、勘定奉行の選出は一向に進展を見せなかった。「これはこれは、掃部頭殿。ご多忙の折にいかなる用向きにござろうか」 宇和島藩伊達宗城は、藩邸を訪れた井伊直憲を意味深な笑みで...
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第474話 『議題草案』

慶応五(明治二)年四月二十七日(1869年6月7日) 江戸城 謁見の間「京の議会は、見ての通りの有り様でございます」 慶喜は京からの最新の報告を粛々と述べ終えた。 上座には将軍家茂が座る。 もともと体が強い方ではなかった。外患が消えても内憂...
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第473話 『薩長再び』

慶応五(明治二)年四月二十七日(1869年6月7日) 京都 貴族院「井伊掃部頭殿の弾劾を求める! 大義なき戦を起こそうとした罪は万死に値する!」 長州藩の議員席から、木戸孝允の鋭い声が響き渡った。 議場は次に口を開くであろう薩摩藩の席に注目...
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第472話 『水面下の奔流』

慶応五(明治二)年四月二十四日(1869年6月4日) 井伊直憲が放った『詰問状』による妥協案は議場にざわめきを起こしたが、次郎は冷静にその場を観察していた。 ――発 隠密方 宛 左衛門佐殿 去る十八日ならびに十九日、薩長さっちょうそれぞれ上...
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第471話 『決裂か妥協か』

慶応五(明治二)年四月十八日(1869年5月29日) ――井伊掃部頭、長州征討を動議せり候。 大村は反対するも強硬採決ならば決裂も辞さずと発言せり候――。 短い文面は、またたく間に海を越えた。 ■長州 萩城「殿。ただちに上洛すべきにございま...
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第470話 『次なる火種』

慶応五(明治二)年四月十二日(1869年5月23日) 採決の日から2日後、議事堂には奇妙な緊張感が満ちていた。 次郎は公議政体党の議員たちが浮かべる自信に満ちた表情を横目に、思いを巡らせている。 彼らが勝利の勢いを駆って、次なる一手、何を打...
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第469話 『採決の日』

慶応五(明治二)年四月十日(1869年5月21日) 本会議での採決を翌日に控えた夜、慶喜が住む小浜藩邸の一室には、井伊直憲と加藤丹後守、そして小栗上野介と渋沢栄一が集っていた。 部屋の空気は張り詰めているが、奇妙な落ち着きがある。 出納帳は...
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第468話 『悪魔の証明』 

慶応五(明治二)年四月一日(1869年5月12日)「……そうか。出納帳を出せと」 慶喜の声は意外なほど落ち着いていた。「金の出入りが真でも案ずるには及ばん」 最初は驚きを隠せなかったが、じっくり考えた慶喜の答えはこうであった。 ――幕府の極...
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第467話 『逆転の一手』

慶応五(明治二)年四月一日(1869年5月12日)「それがしの不徳の致すところ。誠に申し訳ございませぬ」 詮議が終わって半刻ほど過ぎた頃であった。 京都に構える大村藩邸の一室で、根岸主馬が畳に額をすり付けんばかりに頭を下げている。 悔しさと...
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第466話 『御料所差配詮議方と幕府除目詮議方』

慶応五(明治二)年四月一日(1869年5月12日) 1週間たっても、慶喜に対して伊達慶邦からの返事はなかった。 東北の遊説の行程は知らせてあったので、電信を使えばすぐに届くはずなのに、である。 慶喜は考えた。 返事がない……すなわち迷ってい...
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第464話 『詭弁か忠義か』

慶応五(明治二)年二月十六日(1869年3月28日) 京都 大村藩邸 本日は夜も遅いので、と言って別れた翌日、居室で先に口を開いたのは純顕であった。「次郎。昨日は詭道きどうと申したが、つぶさにはいかなる手を打つのだ。公議政体党は数で我らを上...
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第463話 『慶喜の奇策』

慶応五(明治二)年二月十五日(1869年3月27日) ――議会が認めたなら、それで構わぬ。 江戸から戻った慶喜の答えは、次郎の予想に反してとても単純であった。 天領の議会管理も、幕閣の門戸を大いに開く提案も、議会の承認があれば認めるらしい。...
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第462話 『あり得ない条件』

慶応五(明治二)年二月五日(1869年3月17日) 京都・小浜藩邸「……条件、とな。いかなるものか」 慶喜は努めて平静を装って低い声で問い返した。 家茂の意向を受けて、徳川の威光を保ったまま大村を取り込むための懐柔策である。その最終段階で相...
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第461話 『懐柔』

慶応五(明治二)年二月五日(1869年3月17日) 京都・小浜藩邸 障子の外からは、夕刻を告げる鐘の響きがかすかに届いていた。 調えられた食卓には鯛たいや鴨かもの吸物、京の野菜を使った膳が並んでいる。夜の饗応きょうおうは豪華ではないが、随所...
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第460話 『問責と仕切り直し』

慶応四年十二月二十日(1869年2月1日) 江戸城「? 然様さようか。余が聞いた話とは随分違うようだが……」  慶喜の額から冷や汗がしたたり落ちた。「余が聞いた話では、守護職屋敷の放火と升屋の刃傷沙汰は犯人を取り押さえたと聞き及ぶ。然りなが...
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第459話 『鹿児島での対峙と将軍家茂』

慶応四年十二月二十日(1869年2月1日) 鹿児島へ向かう船上 <次郎左衛門> さーて、どうしたもんかな。 馨かおるや俊輔にはああ言ったけど、あれはあくまで方便みたいなもんだ。 あいつらきっと『大村藩はオレたちの味方だ』なんて思い込んだまま...
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第458話 『時と場合』

慶応四年十二月十日(1869年1月22日) 周防国 三田尻「御家老様、三田尻の港が見えてまいりました」 供の助三郎の声に次郎は我に返る。船室の窓に目をやると鉛色の空の下に長州の陸地が横たわっていた。「そうか。出迎えはあるかな」「井上馨殿が直...
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第457話 『グラバーと薩長』

慶応四年十二月八日(1869年1月20日) 京都 大村藩邸 次郎は江戸での諸外国への説明対応を終わり、幕府への引継ぎをした後に京都へ戻っていた。 戻ってきたの表現がしっくりくるほど、京都と江戸、大村を行き来している。 多忙な大村藩の家老であ...
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第456話 『スコットランド商人のささやき』

慶応四年十一月中旬(1868年12月下旬)「おや、井上さあと伊藤さあじゃなかと? どげんしたと?」 開国の影響を受けて西欧と東洋の文化が混在する国際都市長崎で、出島の多様な商業活動の騒音から距離を置いた丸山の静寂に包まれた高台に、その料亭は...
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第455話 『再び、フィクサー次郎』

慶応四年十一月上旬(1868年12月中旬) ・まずは幕府に公式に合議制を認めさせる(成功・貴族院) ・貴族院議場を幕府の権限を弱めるために本願寺に移設(論議中に騒動発生) ・無党派層の取り込み(進行中だが京都の騒乱のために進んでいない) 本...
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第454話 『勅許と激震』

慶応四年十月二十九日(1868年12月12日) 京都 岩倉邸「~との由にて、麿まろが草(下書き)をしたためて奏上いたしましゃる。近々に主上おかみより宣旨が発せられましゃる」 ! な、なんて? なんて言った? 殿が正四位下で近衛大将このえのだ...
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第453話 『武備恭順 ~長州藩、復讐への道筋~』

慶応四年十月二十七日(1868年12月10日) 周防国 山口城 周布政之助の死は、長州藩に重苦しい影を落としていた。 慶喜の政治的裁定によって藩の重臣が命を絶たれた事実は、藩士たちの心に幕府への消えぬ憎悪を刻み付けたのである。藩庁の空気は悲...
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第452話 『三権分立と薩長の離反』

慶応四年十月二十日(1868年12月3日) 京都 大村藩邸  京都の混乱が一応の決着を見てから六日が過ぎ、徳川慶喜の政治的手腕によって表面上は秩序が回復したかに見えた。 しかし次郎には、この平穏が砂上の楼閣に過ぎないと分かっている。 三権分...
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第451話 『慶喜の政治的裁定と三権分立への道』

慶応四年十月十四日(1868年11月27日) 二条城 偽の長州藩士2名(真犯人)  罪状:騒乱罪(首謀者)、放火罪、詐欺罪(身分詐称)、謀反罪(幕府転覆)   処罰:死罪(斬首) 見廻みまわり組隊士  罪状:騒乱罪(料亭での集団暴行・刃傷沙...
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第450話 『沙汰と黒幕』

慶応四年九月六日(1868年10月21日) 新選組の屯所で、土方は取り調べを続けていた。 しかしいっこうに進展はない。 一方には京都見廻みまわり組の隊士たち、もう一方には長州藩士たちがいる。「我らは何もしておらぬ。祝い酒の帰りに歩いていただ...
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第449話 『料亭の凶刃』

慶応四年九月四日 夜半 京都 京都守護職屋敷「……近藤、土方をここへ」 執務室の静寂を破ったのは、松平容保の低くしぼり出すような声だった。 近習が息をのんで退出すると、部屋は再び沈黙に包まれる。燭台しょくだいの炎が揺れ、机の前に座っている容...
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第448話 『長州を救う密約』

慶応四年九月三日 夜更け 京都 大村藩邸 日付がまさに変わろうとする刻限であった。 自室に長州藩の家老・周布政之助と重臣・久坂玄瑞を残し、次郎は純顕の私室へと続く廊下を速足で進んでいく。 静まり返った屋敷に、次郎の足音だけが響いた。その歩み...
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第447話 『周布と久坂』

慶応四年九月三日(1868年10月18日) 夜の闇が三条小橋界隈の小さな居酒屋にまで忍び寄っていた。 行燈の頼りない光が、店内にいる数人の男たちの顔をぼんやりと照らしている。 昼間に藩邸で『弾圧停止の約束』を取り付けたとの知らせを受け、束の...
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第446話 『守護職弾劾』

慶応四年九月二日(1868年10月17日)「御用改めである! 神妙にいたせ!」 けたたましい怒鳴り声と共に、旅籠の部屋の障子が無残に蹴破られた。 月明かりを遮って現れたのは浅葱あさぎ色の羽織をまとった新選組の隊士たちである。抜き身の刀が行燈...
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第445話 『第一回貴族院と事件』

慶応四年八月下旬(1868年10月) 京・小松帯刀たてわき邸 庭に落ちる影が、ゆっくりと西へ傾き始めていた。 帯刀は大久保利通が去った後、数日間にわたって一人部屋に籠もって考え込んでいる。 大久保が示した策は暗闇を照らす希望の光にも見えれば...
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第444話 『公儀政体党』

慶応四年八月十五日(1868年9月30日) 京・薩摩藩邸「和戦両様? 詳しゅう申せ、帯刀たてわき」「は」 久光の低い声には未だ納得できない苛立ちが表れている。帯刀は主君の視線を真っ直ぐに受け止め、覚悟を決めて口を開いた。「は。まず『和』ん道...
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第443話 『公儀の影』

慶応四年八月十三日(1868年9月28日) 京・大村藩邸 小御所での嵐の朝議から二日が経過した。 次郎が心血を注いで起草した『重要技術管理法案』は、帝の裁可を経て正式に布告される段取りとなり、その知らせは京の有力者たちの間に静かだが確実な波...
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第442話 『典薬寮と権力闘争』

慶応四年八月十一日(1868年9月26日) 「ふう」 次郎は、書き上げたばかりの『重要技術管理法案』の草案から顔を上げた。 新暦に直すと9月末だが、それでも残暑が厳しい。 洛中らくちゅうの連続ボヤ騒ぎに関する加賀藩からもたらされた情報は、犯...
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第441話 『技術の担い手』

慶応四年六月二十三日(1868年8月11日)  横浜外国人居留地内 商館 商館内は緊張感に包まれていた。 幕府とフランス、双方の技術者を集めた実務者協議の場である。 パリ万博において、フランスに対する無煙火薬と高強度鋼の供与に関する協定が結...
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第440話 『典薬寮と理化学研究所』

慶応四年五月四日(1868年6月23日)「脚気衝心かっけしょうしん……にございますか。にわかには信じがたい診立てですな」 藩医は困惑した表情で首をひねっている。 薩摩藩邸に戻った小松帯刀は、藩医に大村藩病院での診断結果を報告していた。 横に...
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第439話 『事件は迷宮へ、されど疑心暗鬼は深まり時は過ぎる』

慶応四年五月三日(1868年6月22日)「五兵衛よ、詳しく知らせよ」 慶寧よしやすの問いに、五兵衛は頭の中で情報をすり合わせ、間違いがないか考えている。 ただの風聞では片付けられない、不穏な意味合いを持っていると考えられるのだ。「はい、申し...
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第438話 『顛末とこれから』

慶応四年五月三日(1868年6月22日)「申し上げます。禁裏御守衛総督屯所より上使がお越しになりました」 張り詰めた声が静かな部屋に響く。純顕が短く応じた。「お通しせよ」 初夏の陽光が障子を通して柔らかく差し込む中、大村藩邸の奥座敷には純顕...
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第437話 『投げられた賽・朝廷と幕府』

慶応四年五月一日(1868年6月20日) 京の空は朝から低い雲に覆われていた。 禁裏御守衛総督屯所の一室では、他とは一線を画す重厚な緊張感が満ちている。 部屋の中央には総督の一橋慶喜。 目の前には大村藩邸からもたらされた一通の書状が置かれて...
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第436話 『科学の目』

慶応四年四月二十五日(1868年5月17日) 洛中らくちゅう同時多発火災から数日後、容疑者の実行犯4名の男たちが捕縛された。 幕府、薩摩、長州、公家くげの全勢力に恨みを持つ者たちが同時に事件を起こし、人々に深い困惑をもたらしたのである。 こ...
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第435話 『洛中謀略譚』

慶応四年四月十八日(1868年5月10日) 小御所での会議が混乱のうちに終わった翌朝、京の空には雨がやんで湿った空気が漂っていた。 洛中らくちゅうを騒がせた火事は大きな延焼もせず、いずれも小規模なボヤ程度の騒ぎで鎮火していたのである。 人的...
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第434話 『政治改革と京都炎上』

慶応四年四月十七日(1868年5月9日)夜 御所内 小御所 慶喜が提示した石高に応じた票数配分案は、小御所内の空気を再び動かした。 親藩・譜代と外様とざまの票数が拮抗きっこうし、公家くげ衆が加わる。 一見すると数の不公平を解消する現実的な妥...
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第433話 『混迷の小御所会議:慶喜の貴族院構想と各藩の思惑』

遡って大村藩邸での会合の後――。「お見事でございます。これにて万事、滞りなく相成りました」 永井尚志なおゆきはわずかな笑みを浮かべて慶喜に言った。「ふん」「頭を下げて事が良き方へ流れるならば、いくらでも下げれば良いのです。然さりながら殿が行...
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第432話 『禁裏御守衛総督』

慶応四年四月十日(1868年5月2日) 京・大村藩邸 春の柔らかな日差しが、手入れの行き届いた庭の苔こけを照らしている。「――以上が、越前までのあらましの次第にございます」 次郎は純顕への報告を終えた。 北陸から戻って京で合流してから7日が...
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第431話 『老兵と風聞』

慶応四年(明治元年)四月一日(1868年4月23日) 江戸城「おお、おお……。左衛門尉(川路聖謨)、それに下総守(水野忠徳)に信濃守(井上清直)、淡路守(村垣範正)まで……。よくぞ参った」 慶喜の眼前には、黒船来航以来の激動期に、日の本の外...
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第430話 『どんな手を使っても』

慶応四年(明治元年)三月二十八日(1868年4月20日)  先般、大老院解散の儀、我が言に配慮なきゆえに貴殿の気を害せし事、我が不徳に御座候。 然しかれども、幕府が日本を差配する大義に揺らぎ無く、此度こたび改めて帝より大政委任の宣旨を賜り候...