令和9年4月1日(2027年4月1日)佐世保教育隊
本日ここに、特別プログラムを修了された三名の皆さんに、心から敬意と祝意を表します。
皆さんはかつて日本海軍を率い、歴史の荒波を生き抜いた指揮官であり、幾多の困難と責任を背負ってこられました。
豊富な経験と知見を活かし、海上自衛隊の教育に真摯に取り組まれたことに、感銘を受けています。
この二年間、皆さんは現代の戦術や技術、組織運営を学びながら、ご自身の歴史的経験を惜しみなく共有してくださいました。
皆さんの存在は、私たちにとって過去と未来をつなぐ架け橋であり、海上防衛の本質を問い直す貴重な機会となりました。
今後は、時代を超えて受け継がれるリーダーシップと、変化に適応する柔軟さをもって、海上自衛隊のさらなる発展に力を貸してくださることを期待しています。
皆さんの歩みが、後に続く者たちの道標となることを、心より願っています。
本日は誠におめでとうございます。
本日は、私たち三名のために、このような厳かな修了式を挙行していただき、誠にありがとうございます。
思えば、私たちは異なる時代からこの場所に立ち、現代の海上自衛隊という新たな組織の中で、二年間の特別な学びのときを過ごしてまいりました。
最初はすべてが未知であり、戸惑いと驚きの連続でした。
しかし、教官の皆様や仲間の温かい支えのおかげで、私たちは壁を乗り越え、今日を迎えられたことをうれしく思います。
この課程を通じて、私たちは現代の技術や戦術だけでなく、時代を越えて変わらぬ『海を守る者』としての誇りと責任を、改めて胸に刻みました。
歴史や経験だけに頼るのではなく、常に新しい知識を学び、変化に適応することの大切さを痛感しております。
これから私たちは、それぞれの持ち場で、ここで得た学びと決意を胸に、全力を尽くす所存です。
過去と現在をつなぐ者として、そして未来のために、微力ながらも海上自衛隊の発展に貢献してまいります。
最後に、私たちを温かく迎え入れ、導いてくださったすべての方々に、心より感謝申し上げます。
本日は、誠にありがとうございました。
「ふふふ、まさかこの年で答辞を読むとはな」
「まったくですね」
「私は長官の答辞を聞けてうれしいですよ」
「艦長、いや、加来君、こちらに来て世辞がうまくなったんじゃないのかね」
あははははは!
三人の笑い声が講堂にひびき、時間の許す限り思い出話に花を咲かせていた。
「まさか、これをやるわけではないよな?」
佐世保教育隊をはじめとした、すべての初級訓練の施設は海岸沿いにある。海上自衛隊なので当然なのだが、ある意味カッター訓練のためなのかもしれない。
山口多聞は佐世保教育隊の海岸沿いにある短艇係留場で、飛龍艦長の加来止男大佐、副長の鹿江隆中佐にボソリ、と言った。
三人は2025年4月1日から一緒に幹部候補生課程で学んでいる。
ゴールデンウィークが終わり、初日の昼休みに隊内を散策していたのだ。自衛隊も公務員であり、ここで働く隊員もカレンダー通りの休みを与えられて、シフトを組んで休暇をとっている。
ある者は実家に帰省し、ある者は帰らずに佐世保のアパートに滞在し、ある者は金を使いたくないのか、隊舎で寝起きする者もいた。
「まさか、一般の幹部候補生はすべての訓練を実施しますが、皆さんはそうではありませんよ」
海上自衛隊においてカッター(短艇)訓練は、壮絶な訓練の一つである。
体力錬成とチームワークの醸成を目的とした重要な訓練なのだが、腕の筋肉と腹筋にかなりの負担がかかる。
そして、座席に触れている尻の皮が破れ、血がにじんで入浴時に悲鳴をあげるのだ。
幹部候補生課程には三種類ある。
A幹は防衛大学もしくは一般大学の卒業生が受講、B幹は部内選考、C幹はキャリアを積んだ35歳以上50歳未満の隊員が受講するのだ。
A・B・C幹ともカッター訓練はやるのだが、それは幹部になるためである。
しかし、三人はすでに兵学校で経験済みなので、必要がない、と説明する教官であった。
2027年1月――。
山口は加来、鹿江とともに、護衛艦『いずも』の巨大な全通甲板に立っていた。
特別プログラムの最後の課程として、部隊実習のために乗艦したのだ。
実際に護衛艦に乗艦し、鹿江は副長として艦長の補佐と艦内の掌握、加来は空母としての護衛艦の運用。
そして山口は、隊司令として部隊を運用していく。
補佐として、小松や石川が待機していた。
護衛艦『いずも』は全長248メートル、幅38メートルで、その艦体は海上自衛隊で最大級の威容を誇る。
艦橋に上がり、CIC(戦闘指揮所)では各部隊の配置や通信状況を確認。
山口は第一護衛隊司令として、僚艦や随伴するヘリ部隊と連携しながら、艦隊運用の実習を開始した。
艦内では約470名の乗員が、飛行甲板での航空機運用や、格納庫での整備作業、物資輸送の準備に忙しく動いている。
OPS-50対空レーダーやC4ISTAR戦術情報処理装置を駆使して、敵情把握や味方艦の位置管理を行い、艦隊全体の指揮を執ったのだ。
さらに、固定翼・回転翼の発着艦訓練、対潜哨戒、災害派遣を想定した人員・物資の輸送、医療区画での応急対応訓練など多岐にわたる任務を体験。
現代の多機能艦隊運用を実地で指導・体感したことになる。
艦橋から海原を見渡し、山口は『これが現代の艦隊運用か』と静かに息を吐いた。
「さすが、としか言いようがありませんね。司令」
第一護衛隊の隊司令である小松が、山口に対して言った。小松は一佐であるが、山口は少将だったことを考慮して海将補となる。
「いえいえ、お恥ずかしい」
ちなみに、護衛艦『いずも』では艦長の石川も小松と同じ一佐である。
最新鋭の装備と大規模な組織力が、彼らの指揮のもとで一つにまとまっていく――。
――課程受講から二年。
昭和十七年、鹿江隆は副長で中佐、加来止男は艦長で大佐、山口多聞は第二航空戦隊司令官たる海軍少将であった。
幹部候補生課程と指揮幕僚課程を含めた二年間のプログラムであったが、階級はそのまま二佐、一佐、海将補とされたのである。
山口は、折から就役している護衛艦DDH185『ひりゅう』とともに編成された、新鋭第一機動護衛隊の隊司令として着任が決まっていた。
もちろん、鹿江が任官する二佐以上のすべての佐官、将官には機密保全の為の書面にサインが義務づけられた。
違反した場合、またはその疑いがある場合は厳しい罰則が設けられたのである。
次回予告 第13話 (仮)『新鋭、第一護衛艦隊第一機動護衛隊』

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