1986年(昭和61年)5月4日(日)
佐世保に到着。
5月だぞ! 半袖でよかったんじゃねえのかってくらいの暑さだ。オレは汗っかきだから、タオルは手放せない。
絵美の気遣いに感謝感謝だ。
万津ターミナルから歩いて四ヶ町まで向かう。10分程度の距離だけど、まずは何をするか決めないとカオスになるな。
「じゃあ、まずはどこに行く?」
悠真の問いかけに、6人が一斉に声を上げた。
「四ヶ町!」(美咲)
「ゲームセンター!」(凪咲)
「鹿子前水族館!」(絵美)
「島瀬美術館!」(礼子)
「玉屋の遊園地!」(菜々子)
「石岳動物園!」(純美)
6人6様の答えに悠真は頭を抱えた。
やっぱりこうなるか……。
見事にそれぞれの好みが分かれている。
51脳は冷静に分析するが、じっくり全員の希望を叶えるのは時間的に不可能だ。かといって、誰かの希望だけを優先するわけにもいかない。
「えーっと、じゃあ四ヶ町アーケードをぶらぶらして買い物とかしながら、玉屋とゲーセンと島瀬美術館、お昼はバーガーショップ。その後動植物園に行って、最後に鹿子前水族館に行こうか」
妥当な提案に、全員が納得したようだった。
しかし、どう考えてもかなりタイトなスケジュールだ。
まるで無理矢理詰め込んだ旅行ツアーのようである。観光名所をまわることを優先して、1つの場所の良さを堪能する前に次にいかなくちゃならない。
ただ通過しているようなもんだ。
「じゃあ、悠真の隣は私が歩く!」
行き先が決まって歩き始めたころ、凪咲がいきなり悠真の腕を掴んだ。
「あ! ズルい!」
即座に美咲が反対側の腕をつかむ。
この2人は仲が良いのか悪いのか。
ふだんはいいんだろうが、悠真のことになるとライバル心がむき出しである。
「ちょっと待って! そういうの、平等にしない?」
礼子の冷静な一言に、場がシーンとなった。
悠真がいじめられっ子だった礼子を助けてから、今がある。
最初は控えめな子だと思っていた悠真であるが、自宅(礼子の家)の件があってから、少しずつ礼子が積極的になってきているのを感じていたのだ。
純美や菜々子、絵美は黙ってみている。
「それなら、ジャンケンで順番に決めようよ」
純美が静かに提案した。
「みんな、じゃんけんで決める?」
菜々子が言う。
「その方が公平だね」
恵美も小さな声で賛同した。
(ありがとう、3人とも…)
事態を収拾しようとする3人に、悠真は心の中で感謝した。
「うーん、でもじゃんけんじゃ運任せだし……」
美咲は不満げだ。
「それとも……順番に決めておく? 最初は美咲、次は凪咲、その次は……」
礼子の提案に、女の子たちは顔を見合わせた。
悠真は気まずい雰囲気を打破しようと、別の提案を思いつく。
「えーっと、じゃあ、そういうの、もうなしにしようよ。そうすればケンカも起きないし。それに……手をつなぐのは、学校でもできるだろ?」
悠真の冷静な言葉に、女の子たちは一様に目を丸くした。
「え?」
美咲の声には驚きが混じっていた。
「そうだよ。こうして皆で佐世保に来たんだから、楽しむことに集中しようよ。誰が隣にいるとか、誰と手をつなぐとか…そんなことで時間を無駄にするよりも、限られた時間を有効に使おう」
51脳の経験と知恵が、この言葉を導き出した。13脳はまだ抵抗しているようだが、今は理性が勝る。
女の子たちは互いに視線を交わし、少し恥ずかしそうにした。
「そうだね……ごめんね」
美咲が腕を離した。凪咲も同様に手を放す。
「悠真の言う通りだね。せっかくの楽しい日なのに」
菜々子の言葉に、全員が静かに頷いた。
「そうね。その方がいいかも」
礼子も同意した。
悠真は安堵の息をつきながら、前を向いて歩き始めた。
「さあ、四ヶ町へ行こう!」
明るい声に、女の子たちも笑顔で続いた。
本当に納得したかどうかはわからないが。
四ヶ町アーケードは日曜日ということもあり、人で賑わっていた。
今は、ああ、令和の今は、日本全国でアーケードは人通りが少なくなっているようだけど、昭和の日曜日は、そりゃあ混雑していた記憶がある。
悠真は先頭を歩き、6人の女の子たちが緩やかな列を作って続く。
なんだが、手はつながないが、どうしても右に美咲で左に凪咲の構図が発生する。
悠真は苦笑いするが、これ以上は制御のしようがない。
それでも、断腸の思い(?)で悠真は後ろにずれる。
「はい! じゃあ今度は純美と礼子の番ね」
そう言って左右に並んだ2人に声をかけながら歩く。
これなら手をつなぐのと同じじゃないか、と思う悠真だが、それだと荷物も持てないし、明らかに周りが悠真を見る目がおかしいからだ。
いや、まじでこれ、面倒くさいぞ。
オレがなんでこんな苦労しなくちゃならねえんだ?
美咲が興味を示したアクセサリーショップの前で、一行は立ち止まった。
「ここ、見てもいい?」
悠真は微笑んで頷いた。
「いーよー。みんなで見よう」
店内では美咲が積極的にアクセサリーを手に取り、他の女の子たちにも意見を求めている。
「これ、どう思う?」
美咲の問いに、凪咲や純美も興味を示し、3人で品定めを始めた。
「悠真はどれが好き?」
純美が尋ねると、悠真は慎重に言葉を選んだ。
女が言うどれがいい? どっちが似合うかな? は全く意味のない不毛な質問である。
なぜならその答えはすでに決まっているからだ。
ただ、そのプロセスを無理矢理男に押しつけているに過ぎない。
真剣に悩んで、うーん、どっちも似合うと思うけど、こっちがいいんじゃない?
それで、結局選んだのが全く違うものだったりする。
あれはいったい、何なんだ?
「あー、それいいね! うんうん、似合うよ。うーん、でもこっちも捨てがたいなあ……。でも美咲ならどれでも似合うよ♪」
なんていう外交的な返答に、3人とも納得したのかしないのか、それぞれ自分の好みのアクセサリーを選び始めた。
純美はシンプルなシルバーのペンダントを、凪咲は揺れるタイプのピアスを、美咲はブレスレットを選んだようだ。
もちろん、中学生が買うアクセサリーだ。
貴金属店と言うよりも、雑貨屋である。
会計を済ませて店を出ると、菜々子と恵美、それに礼子がが少し離れた場所で立ち止まっていた。どうやら店内を物色したが、目当てのものがなかったようだ。
「ごめんね、待たせちゃって」
美咲が申し訳なさそうに言うと、菜々子は首を横に振った。
「ううん、大丈夫。ゲームセンターに行きたいんだけど、いいかな?」
菜々子が遠慮がちに尋ねた。
「いいね! 行こう行こう!」
凪咲がすぐに賛成する。
ゲームセンターは凪咲の希望だったから当然だ。美咲も純美も異存はない。
「礼子はどうする?」
悠真が礼子に尋ねると、彼女は微笑んだ。
「私も行くよ。ゲームセンター、久しぶりだから楽しみ」
次の目的地はゲームセンターなんだが、なにしろ目立つ。
男が1人で、しかも中学生だ。
それが、これだけたくさんの女の子たちを連れて歩いているのは、やはり珍しいのだろう。
特に美咲、凪咲、純美、礼子、菜々子、恵美と、それぞれタイプの違う、皆どこか目を引くかわいい女の子たちだ。
道行く人が振り返ったり、ひそひそと何かを話したりしているのがわかる。
前世でもこの6人はかわいいランキングに入っていたが、今世ではなぜかそのランキングがさらにアップしているようだ。
ま、これもハーレムの代償か……。
オレの51脳はどこか楽しんでいるが、13脳は少し居心地が悪かった。
男から見れば、かわいい女や美女を連れている男は、クソ男に見えるもんなんだ。
自分がそういう環境にないもんだから、せめて男のランクを無理矢理下げる事で、脳内で納得出来るように処理しているんだろう。
オレの試練(?)はまだまだ続いた。
次回予告 第80話 『修羅場! 6人と悠真の大冒険? その3』

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