第64話 激突! 佐世保湾海戦①

 黒口湊 深沢義太夫

「いそげいそげ急げ! 休暇中の者も全員叩き起こして集合させろ」

「弾は満載しろ! 食料は……三日分のみでよい!」

 檄を飛ばす。準備ができた艦から順次出港だ。二週間の演習を終えたばかりなのに気の毒だが、敵は待ってくれない。

 黒口の軍港、面高の造船所、技術街には、小規模だが歓楽街をつくっている。

 休暇といっても士官は全員近場に居を構えているし、兵にいたっては官舎住まいも多い。飲み屋にいるか家で寝ているかだ。

 一刻半(約三時間)ほどで全艦出港準備が整った。

(それでもこれだけ時間がかかったか。もっと訓練しなければ)

 旗艦に「教練」の旗はあがっていない。かわりに「Z」の旗があがっている。

 艦隊司令、いや海軍奉行に任命されてから、このよくわからん旗や文字を覚えさせられた。……それにしてもなんで「Z」なんだろう。

 準備が整った。佐世保湾に向けての南西の風だ。

「それにしても、なんでZなんですか?」

 まだこの話し方には慣れないが、部下の手前、慣れていくしかない。小声で聞く。まさか知らないと思われては困る。

「Z旗か。A~Zで最後になるだろう? だから、もうあとがない、全員全身全霊で奮励努力せよ、という意味さ」

「最後? では、ん、でも良かったのではないですか?」

「え? いや、まあ、そうだけど、とにかく俺の中ではZなんだよ。それで今後もいく」

 わかりました。そう俺は言って前方を見る。ん? 哨戒艦から何か信号が来ているぞ。

「敵大型艦 八ヲ認ム 艦砲アリ 小型艦 ナシ」

 どうした? 殿が聞いてくる。

「は、前方哨戒艦より信号あり。敵大型艦八、艦砲有り、小型艦は確認できず、との事です」

 ふむ、と、殿はあごをさすっている。

「どう思う? 海峡封鎖で俺たちを通らせない、というのは常道だが、艦隊決戦でも封鎖でも、小回りの利く小型艦がないのはおかしい」

「そうですね、一昨年の敗戦で懲りているでしょうから、なおの事、大型艦のみというのは解せませぬ」

「いずれにしても俺達はあの艦隊を撃破して内海に入らねばならない。勝行、あとの指示を頼む」

「我ニ続ケ」

 信号を送って艦隊を直進させた。

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