1986年5月11日(日) PM5:30
バンド練習が終わると、祐介のガレージに続々と人が集まってきた。いつも一緒の祐介が小百合に声をかけたのだろう。小百合は部活に入っていないが、今日は家の都合で昼間は離ればなれだった。
悠真の6人のハーレムメンバー(美咲、凪咲、純美、礼子、菜々子、絵美)はもちろんのこと、祐介の彼女・小百合、蓮の彼女・山内和子(テニス部)、湊の彼女・中田麻衣子(テニス部)もいる。
「よーっ! 頑張ってるねえ~少年たち!」
お前はいったい誰目線なんだよ? とツッコみたくなるような口調で美咲が声をあげた。
「こんな場所に男5人も集まってむさ苦しいなあ……あ、でも悠真は別だよ~♡」
だから誰目線なんだよ?
今度は凪咲である。
なんかこういうキャラクターいたよな?
悠真の51脳が前世で読んだラノベやマンガ、アニメを思い出す。
うん、いるんだよな、こんなキャラ。
『悠真は別だよ~♡』の凪咲のセリフに美咲が敏感に反応して『私も!』と言ったが、他の女子は苦笑いしている。6人はいつもある意味仲がいいが、美咲と凪咲はなぜかライバル関係だ。
お互いにそう思っているのか、いないのか。
それは誰にも分からない。
美咲たち6人がそろって挨拶すると、和子と麻衣子は少し戸惑ったような表情を見せた。
「あー、お疲れ。みんなよく来たな」
悠真は自然体で応じたが、51脳は状況を瞬時に分析していた。
9人の女子が一堂に会するこの状況は、様々な化学反応を起こす可能性がある。
もちろん、全員美少女だ。
これはラノベの定番だが、この世界がオレの実際の過去なのかどうかは正直どうでもいい。実はオレは事故にあって脳死状態(仮死状態)で、オレの記憶が余計に美少女化しているのかもしれない。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
女の子の髪の毛のシャンプーの香りや、握られたときの手の感触と気持ちよさは現実以外のナニモノでもない。
「祐介くん、今日も素敵な演奏でしたわ。特にベースラインが心に響いて……」
小百合がトロンとした表情で祐介を見つめている。祐介も同じような表情で小百合を見返していた。
「小百合ちゃん……君がいてくれるだけで、オレのベースに魂が宿るんだ……」
相変わらずの独特な世界観だった。周囲は慣れているが、和子と麻衣子は少し引いている。
あ、うん。さようでございますか。これが悠真の本心だ。この2人、前からこうだったっけ? 確かにサユリンは良家のお嬢様って感じがするけどな。
「あの……蓮、今度のライブ楽しみだね」
和子が遠慮がちに蓮に声をかける。ライブの話はすぐさま全員に広がったのだ。蓮は途端に真っ赤になる。
「あ、ああ……そうだな……頑張るよ……」
「湊も! 応援してるから」
麻衣子が湊に話しかけると、湊も同様に顔を赤らめる。
「う、うん……ありがとう……」
悠真の51脳は即座に状況を把握した。
やっぱり!
前々から思っていたが、蓮も湊も女子に対して極度に奥手で、手を繋ぐだけで真っ赤になるレベル。ハグやキスなどは夢のまた夢の段階だ。
一方、悠真と6人の関係性は明らかに違っていた。
「悠真、お疲れ~」
美咲が自然に悠真の隣に座ってジュースを渡すと、凪咲もさりげなく反対側に座ってお菓子を渡す。その距離感の近さ、自然な親密さは、和子と麻衣子の目には明らかに『違う何か』として映っていた。
「菜々子ちゃん髪型変えた? 似合ってるね」
礼子が菜々子の髪を褒めると、菜々子は嬉しそうに微笑んだ。
「昨日、悠真に褒められたの♪ だからもう少しこの髪型続けようかなって」
その言葉に和子と麻衣子は微妙な表情を浮かべた。
自分たちの彼氏である蓮や湊は、髪型を褒めることすらままならない状態なのだ。
「絵美ちゃんも最近可愛くなったよね。何かあったの?」
純美が絵美に声をかけると、絵美は顔を赤らめる。
「そ、そんなことないよ……でも、最近ちょっと……嬉しいことがあったから……」
チラッと悠真を見る絵美に対して51脳は『やばい』と警告を発した。
絵美の反応が明らかに初キスの余韻を物語っている。和子と麻衣子の視線が鋭くなった。
「へぇ……嬉しいこと……」
和子が意味深につぶやいた。
「悠真くんとの関係って、私たちとは違う感じがするのは気のせいかな?」
麻衣子の言葉に、場の空気が微妙に変わった。
蓮と湊は何が起きているのか理解できずにいたが、女子たち、特に美咲と凪咲は瞬時に状況を把握した。
「え、どういう意味?」
美咲が上品に微笑みながら応じる。
悠真いわく上品じゃない、わけではない。つまり下品ではない。その笑顔の裏に、51脳は危険な気配を感じ取った。
そこ? 気になるのそこ?
6人ハーレム状態じゃなくて、オレと6人との関係性が気になる?
まあ、別に悪影響ないからいいけど。
たぶん、6人がそれぞれ幸せそうにしているからいいんじゃない?
それよりも自分たちのことが大事!
……てな感じなのか?
「いえ、なんとなくだけど……(私たち、蓮や湊は手を繋ぐだけで彼らは真っ赤になっちゃうのに、悠真くんは余裕があるなって……)」
和子の指摘は的確だった。
当然だ。
実際、悠真は51歳の経験があるから中学生レベルのスキンシップに動じることはない。
ときどき13脳が勝ってハチャメチャにはなるが。
「それは悠真が大人っぽいからじゃない?」
凪咲がさりげなくフォローした。
「でも、なんだか……みんなとの距離感も近いというか……」
麻衣子が遠慮がちに続ける。
確かに悠真と6人の関係は他のカップルとは明らかに異なっていた。手コキ、胸もみ、キスといった行為を重ねている関係性は、見る人が見れば分かってしまうんだろうか。
いや、中学2年生でそれはもはや、全国レベルなのかもしれない。
「そういえば……」
和子が思い出したように手を叩いた。
「中間テストが近いよね。……そうだ! みんなで勉強会しない?」
「勉強会? いいね!」
麻衣子は即OKした。
6人と悠真の関係性の謎も解けるかもしれない。
そう思ったのだ。
突然の提案に、全員が顔を見合わせる。
「勉強会?」
「うん! 13人でやれば、得意分野を教え合えるし、楽しいと思うんだけど」
麻衣子はすかさず、賛成するようにうなずいた。
「それ、いいアイデアじゃない? 悠真と祐介は優等生だし」
美咲が興味を示すと、他のメンバーも乗り気になった。
また、麻衣子と和子は悠真と祐介に対して『くん』づけである。
「オレと湊、勉強苦手なんだよな……」
蓮が困ったような顔をする。
「僕も数学が全然ダメで……」
湊も同調した。
「いいんじゃないか? テストでいい成績を出せば、バンドやってるからって誰も文句言わないだろ? 図書館でやるか?」
悠真が提案すると、全員が賛成した。
「来週の日曜日は?」
「5月25日ね。決まり!」
和子が嬉しそうに手を叩いた。
次回予告 第86話(仮)『13人の勉強会大作戦~でも勉強にならない~』

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