第83話 『絵美。ハグからキスへ』

 1986年5月9日(金) <風間悠真>

 放課後、オレはいつも通り下校中に絵美を廃工場に誘った。

 昨日の菜々子との進展で、遅れ組の攻略に本格的に着手する決意を固めていたんだ。6人の中で1番遅れている絵美を、今日はキスまで持っていく。

「悠真~、今日はどうしたの? 何か変だよ」

 いつも休憩も兼ねておしゃべりする廃工場なんだが、オレの雰囲気を察知して絵美が問いかけてきた。

「いや、別になんでもないよ」

 絵美は少し戸惑いながらも、オレについてきてくれた。

 絵美の純粋な瞳を見ていると、51脳は冷静に戦略を練っているのに13脳が罪悪感を感じている。

 馬鹿たれ!

 キスくらいなんだ。

 今どき小学生でもするぞ。

 ……いや、うん。令和の現実(かどうかわからんが。実際いるかどうかも不明。ただ、40年後はさらに早熟だろう)と今(昭和)を比べても仕方ないか。

 でも、これは必要なステップなんだ。


 廃工場の中は薄暗く、夕日が差し込んで幻想的な雰囲気を作り出していた。

 絵美は周囲を見回しながら、少し緊張している様子だった。

 何でだ?

 オレの様子を敏感に感じ取って、何か考えているんだろうか?

 子どもでも女は鋭いっていうからな(オレも子どもだが←51脳)

「何かここって、ちょっと大人っぽい雰囲気しない?」

 何がどう感じてそうなるのかわからんが、まあ、いい感じ?

 51脳はそう直感した。

「大人っぽい雰囲気か。確かに……何だか秘密のムードだよな。でも何でそう思うんだ?」

 差し込む夕日のオレンジ色の光が、空気中を舞う無数の埃をキラキラと照らし出している。まるでスポットライトみたいだ。

 オレは壁に背を預けると、絵美に問いかけた。

『大人っぽい』という言葉。

 それはオレの計画にとって追い風以外の何物でもない。利用させてもらう。

「えっと……なんていうか……。学校とか普通のお店と違って、時間が止まってるみたいでしょ? それに悠真と2人きりでこんな場所にいると……なんだか、悪いことしてるみたいで……ドキドキするから」

 うつむきながら、消え入りそうな声で絵美は答えた。

 今に始まった話じゃない。

 この廃工場は毎回下校で立ち寄って使っていたじゃないか。

 待てよ?

 絵美と菜々子は小学校からの仲良しだ。

 さては学校で菜々子から聞いたか?

 いや、聞いてなくても菜々子の雰囲気から察したのか?

 どっちにしても、+だよ。

 このシチュエーション自体が非日常で、背徳感を伴う刺激的なイベントになっているわけだ。

 素晴らしい。実に素晴らしい。

 51脳は即座に分析を完了し、次の行動プランを提示する。

 心臓はドクンドクンと高鳴っているが、脳は極めて冷静だ。(51脳>13脳)

「こっちに来いよ」

 オレは壁に寄りかかったまま、ちょっと強めの言葉で絵美に向かって手を差し出した。

 絵美は一瞬ビクッと体を震わせたが、やがて意を決したようにおずおずとオレの方へ歩み寄ってくる。

 いつものハグの体勢。

 でも今日は違う。

 オレ自身が放つ雰囲気も、絵美の緊張の度合いも、何もかもが昨日までとは決定的に異なっていた。

 ドクン、ドクン、ドクン……。

 腕の中で絵美の心臓が早鐘を打っているのが、オレの胸に直接伝わってくる。

 まるで驚いた小動物のようだ。(知らんけど)

 絵美の髪から漂う甘いフルーツ系のシャンプーの香り。

 その匂いがオレの鼻をくすぐり、13歳の肉体(13脳)を純粋な興奮で満たしていく。

 柔らかく繊細で、守ってやりたくなるようなこの体。51年の人生で、こんなにも純粋なときめきを感じたことがあっただろうか。

(しっかりしろ、オレ。感傷に浸っている場合じゃない)

 51脳がデレデレの13脳に冷や水を浴びせる。

 今日のミッションは明確だ。

 絵美との関係を次のステージに進める。そのための布石は十分にうった。あとは、クロージングあるのみ。

「絵美」

 オレは、絵美の耳元でささやくように名前を呼んだ。

「……なに?」

 腕の中から、くぐもった声が返ってくる。

「オレは絵美が好きだ」

 ど直球。ストレート。

 でも嘘じゃなく本当だ。

「……私も。私も悠真が好きだよ……」

 好きだって言葉は、聞くのは初めてじゃない。

 言うのだって初めてじゃない。

 6人全員そうだ。

 でも女って、何で分かりきったことを何回も聞きたがるんだ?

 非、合理的じゃないか。

 あ、いかんいかん。

 前世のくせが。

 男と女は別の生物だって忘れていた。


 よし、今だ。この流れを断ち切るな。畳み掛けろ!


 13脳と51脳が、この瞬間完璧にシンクロする。

 オレは絵美のあごにそっと指をかけ、上を向かせた。

 驚いてちょっと動揺したみたいだが、絵美の瞳はオレの姿をまっすぐに映している。

「なあ、絵美。キス、してもいいか?」

 あえて、許可を求める。

 51脳は瞬時に計算した。ここで強引にキスするのは2流だ。

 1流だ2流だなんて、言っているオレも恥ずかしくなるセリフだが、実際そうなんだよな。

 主導権を握りつつも、最終的な選択権を相手に委ねることで、自分で選んだ事実を絵美に刻み込む。これは、奥手な絵美への配慮であると同時に、今後の関係において絵美を精神的に縛るための、高度な心理的トラップだ。


 絵美は何も言わない。

 ただ、その潤んだ瞳でオレを見つめ返してくる。

 顔が真っ赤だ。

「ダメ?」

「……ダメじゃない」

 その言葉を聞いたオレは、ゆっくりと絵美の顔に近づく。

 もうここからはセリフはいらない。

 ダメじゃない=YESなんだから。

 長いまつ毛が小刻みに震えているのが分かる。顔が真っ赤で唇は少し震えていた。

 ついにオレたちの唇が触れ合う。

 最初は軽いタッチだった。

 絵美の唇は柔らかかったが、初めてのキスなのが伝わってくる。

「んっ……」

 絵美の小さな声が廃工場に響いた。


「悠真……ありがとう」

「何に対して?」

「私を大事に思ってくれて。それから……初キッスの相手になってくれて」

 いや、うーん、初エッチじゃないんだけど、キスのときも初めての相手を気にするんだろうか?

 51脳が前世の経験と大人の感覚で考えたが、13歳の少女にとってはそうなんだろう。

「絵美、これからもっと色んなことを一緒にしよう」

「うん! 私も悠真ともっと色んなことがしたい」

 うん。

 もっといろんなこと、ね。

 いろんなエッチなこと、ね。

 絵美の積極的な言葉に、51脳は『次回は胸みまで進められる』と判断。

 廃工場を出るとき、絵美はオレの手をしっかりと握っていた。今までのハグだけの関係から、キスの関係へと進展したのだ。


 これで6人全員とキスした。

 次の目標は絵美を胸揉みの段階まで持っていくことだ。

 次回はもっと積極的にいってもいいだろう。

 順調順調♪

 現在の進展状況(5月9日時点)

 ※美咲・凪咲なぎさ・礼子・純美:手コキの段階

 ※菜々子:胸揉みの段階(昨日達成)

 ※絵美:キスの段階(今日達成)


 次回予告 第84話 (仮)『7月のIndependence Day Live』

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