1986年5月9日(金) <風間悠真>
放課後、オレはいつも通り下校中に絵美を廃工場に誘った。
昨日の菜々子との進展で、遅れ組の攻略に本格的に着手する決意を固めていたんだ。6人の中で1番遅れている絵美を、今日はキスまで持っていく。
「悠真~、今日はどうしたの? 何か変だよ」
いつも休憩も兼ねておしゃべりする廃工場なんだが、オレの雰囲気を察知して絵美が問いかけてきた。
「いや、別になんでもないよ」
絵美は少し戸惑いながらも、オレについてきてくれた。
絵美の純粋な瞳を見ていると、51脳は冷静に戦略を練っているのに13脳が罪悪感を感じている。
馬鹿たれ!
キスくらいなんだ。
今どき小学生でもするぞ。
……いや、うん。令和の現実(かどうかわからんが。実際いるかどうかも不明。ただ、40年後はさらに早熟だろう)と今(昭和)を比べても仕方ないか。
でも、これは必要なステップなんだ。
廃工場の中は薄暗く、夕日が差し込んで幻想的な雰囲気を作り出していた。
絵美は周囲を見回しながら、少し緊張している様子だった。
何でだ?
オレの様子を敏感に感じ取って、何か考えているんだろうか?
子どもでも女は鋭いっていうからな(オレも子どもだが←51脳)
「何かここって、ちょっと大人っぽい雰囲気しない?」
何がどう感じてそうなるのかわからんが、まあ、いい感じ?
51脳はそう直感した。
「大人っぽい雰囲気か。確かに……何だか秘密のムードだよな。でも何でそう思うんだ?」
差し込む夕日のオレンジ色の光が、空気中を舞う無数の埃をキラキラと照らし出している。まるでスポットライトみたいだ。
オレは壁に背を預けると、絵美に問いかけた。
『大人っぽい』という言葉。
それはオレの計画にとって追い風以外の何物でもない。利用させてもらう。
「えっと……なんていうか……。学校とか普通のお店と違って、時間が止まってるみたいでしょ? それに悠真と2人きりでこんな場所にいると……なんだか、悪いことしてるみたいで……ドキドキするから」
うつむきながら、消え入りそうな声で絵美は答えた。
今に始まった話じゃない。
この廃工場は毎回下校で立ち寄って使っていたじゃないか。
待てよ?
絵美と菜々子は小学校からの仲良しだ。
さては学校で菜々子から聞いたか?
いや、聞いてなくても菜々子の雰囲気から察したのか?
どっちにしても、+だよ。
このシチュエーション自体が非日常で、背徳感を伴う刺激的なイベントになっているわけだ。
素晴らしい。実に素晴らしい。
51脳は即座に分析を完了し、次の行動プランを提示する。
心臓はドクンドクンと高鳴っているが、脳は極めて冷静だ。(51脳>13脳)
「こっちに来いよ」
オレは壁に寄りかかったまま、ちょっと強めの言葉で絵美に向かって手を差し出した。
絵美は一瞬ビクッと体を震わせたが、やがて意を決したようにおずおずとオレの方へ歩み寄ってくる。
いつものハグの体勢。
でも今日は違う。
オレ自身が放つ雰囲気も、絵美の緊張の度合いも、何もかもが昨日までとは決定的に異なっていた。
ドクン、ドクン、ドクン……。
腕の中で絵美の心臓が早鐘を打っているのが、オレの胸に直接伝わってくる。
まるで驚いた小動物のようだ。(知らんけど)
絵美の髪から漂う甘いフルーツ系のシャンプーの香り。
その匂いがオレの鼻をくすぐり、13歳の肉体(13脳)を純粋な興奮で満たしていく。
柔らかく繊細で、守ってやりたくなるようなこの体。51年の人生で、こんなにも純粋なときめきを感じたことがあっただろうか。
(しっかりしろ、オレ。感傷に浸っている場合じゃない)
51脳がデレデレの13脳に冷や水を浴びせる。
今日のミッションは明確だ。
絵美との関係を次のステージに進める。そのための布石は十分にうった。あとは、クロージングあるのみ。
「絵美」
オレは、絵美の耳元でささやくように名前を呼んだ。
「……なに?」
腕の中から、くぐもった声が返ってくる。
「オレは絵美が好きだ」
ど直球。ストレート。
でも嘘じゃなく本当だ。
「……私も。私も悠真が好きだよ……」
好きだって言葉は、聞くのは初めてじゃない。
言うのだって初めてじゃない。
6人全員そうだ。
でも女って、何で分かりきったことを何回も聞きたがるんだ?
非、合理的じゃないか。
あ、いかんいかん。
前世のくせが。
男と女は別の生物だって忘れていた。
よし、今だ。この流れを断ち切るな。畳み掛けろ!
13脳と51脳が、この瞬間完璧にシンクロする。
オレは絵美のあごにそっと指をかけ、上を向かせた。
驚いてちょっと動揺したみたいだが、絵美の瞳はオレの姿をまっすぐに映している。
「なあ、絵美。キス、してもいいか?」
あえて、許可を求める。
51脳は瞬時に計算した。ここで強引にキスするのは2流だ。
1流だ2流だなんて、言っているオレも恥ずかしくなるセリフだが、実際そうなんだよな。
主導権を握りつつも、最終的な選択権を相手に委ねることで、自分で選んだ事実を絵美に刻み込む。これは、奥手な絵美への配慮であると同時に、今後の関係において絵美を精神的に縛るための、高度な心理的トラップだ。
絵美は何も言わない。
ただ、その潤んだ瞳でオレを見つめ返してくる。
顔が真っ赤だ。
「ダメ?」
「……ダメじゃない」
その言葉を聞いたオレは、ゆっくりと絵美の顔に近づく。
もうここからはセリフはいらない。
ダメじゃない=YESなんだから。
長いまつ毛が小刻みに震えているのが分かる。顔が真っ赤で唇は少し震えていた。
ついにオレたちの唇が触れ合う。
最初は軽いタッチだった。
絵美の唇は柔らかかったが、初めてのキスなのが伝わってくる。
「んっ……」
絵美の小さな声が廃工場に響いた。
「悠真……ありがとう」
「何に対して?」
「私を大事に思ってくれて。それから……初キッスの相手になってくれて」
いや、うーん、初エッチじゃないんだけど、キスのときも初めての相手を気にするんだろうか?
51脳が前世の経験と大人の感覚で考えたが、13歳の少女にとってはそうなんだろう。
「絵美、これからもっと色んなことを一緒にしよう」
「うん! 私も悠真ともっと色んなことがしたい」
うん。
もっといろんなこと、ね。
いろんなエッチなこと、ね。
絵美の積極的な言葉に、51脳は『次回は胸揉みまで進められる』と判断。
廃工場を出るとき、絵美はオレの手をしっかりと握っていた。今までのハグだけの関係から、キスの関係へと進展したのだ。
これで6人全員とキスした。
次の目標は絵美を胸揉みの段階まで持っていくことだ。
次回はもっと積極的にいってもいいだろう。
順調順調♪
現在の進展状況(5月9日時点)
※美咲・凪咲
・礼子・純美:手コキの段階
※菜々子:胸揉みの段階(昨日達成)
※絵美:キスの段階(今日達成)
次回予告 第84話 (仮)『7月のIndependence Day Live』

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