第80話 『悠真、絶体絶命! ? 6人の女の子とタイムリミット』

 1986年(昭和61年)5月4日(日)<風間悠真>

 オレは後ろを振り返って、6人の女の子たちがちゃんとついて来ている確認する。

 さっきまでアクセサリーショップで盛り上がっていた美咲、凪咲なぎさ純美あやみの3人に対し、菜々子と恵美は少し遠慮がちだった。

 礼子は相変わらず余裕のある態度を崩さない。

 恵美のハンカチや礼子のおにぎり。

 全員が全員を意識して、ライバル心を燃やしている。

 あーもう!

 面倒くせえ!

 そう思ったんだが、51脳がリスクとリターンを淡々と頭の中で語る。

 代償のない成果はないんだ、と。

 6人全員とセックスするというオレの目的のためには、我慢だ。


 アーケードを進み、目的のゲームセンターが見えてきた。

 入り口からは電子音が鳴り響き、筐体きょうたいの光が漏れ出している。

 ゲームセンターは不良のまり場のイメージが多少は残っていたが、健全な若者も多く集まっていた。いや、むしろその傾向が強く、店内も明るくて広々としている。

 それに今は日曜日の昼間。

 不良はいない。

「わー、すごい音!」

 恵美が目を丸くする。

「ゲームセンターなんて、初めて来たかも!」

 菜々子も興奮した様子だ。卓球部で運動は得意なはずだが、インドアな遊びはあまり経験がないのかもしれない。

 中に入ると、さらに音と光の洪水に包まれた。

 インベーダーゲーム、ギャラガ、クレイジークライマー。最新のゲームがいくつもある。壁際にはパンチングマシーンや、UFOキャッチャーをはじめとした景品ゲームが並んでいた。

「なーにやろっかなー!」

 凪咲が目を輝かせながら、ゲーム機の間を縫うように進んでいく。彼女はこういう場所が好きそうだ。

「あ、これやったことある!」

 美咲が立ち止まったのは、対戦型のレーシングゲームだった。

「一緒にやろ、悠真!」

 美咲が悠真の腕を引っ張る。悠真は反射的に『いいよ』と答えたが、ふと他の女の子たちの視線を感じた。

 凪咲は既に別のゲーム機の前でコインを入れようとしている。

 純美と礼子は少し離れた場所でゲームの種類を見定めていて、菜々子と恵美も、とりあえずどんなゲームがあるのかチェックしていた。

 それぞれ独自の行動をしているが、お互い何をしているかのセンサーは敏感なんだろう。

「あ、でも、みんなで一緒にやれるゲームがいいかな?」

 悠真は美咲にそう言いながら、パンチングマシーンの前へ移動した。

「これ、みんなで順番にやってみようよ! 誰が一番強いか競争!」

 パンチングマシーンは力自慢の男子が集まるイメージがあるが、悠真はあえてこれを選んだ。

 単純明快で誰でも参加しやすい。

 最初は遠慮していた女の子たちも、悠真の勧めで順番に挑戦し始めた。

「えいっ!」

 美咲が小さな声を出してパンチする。

 表示された数字はそれほど大きくないが、楽しそうだ。

 凪咲はもっと力強くパンチした。

「 「 「わー、すごい!」 」 」

 と歓声が上がる。

 順番に挑戦していくのだが、それぞれの個性がパンチに表れるのが悠真にとって面白かった。

 そして悠真の番。

 51脳は『ここは適当にやっておこう』とささやいたが、13脳が『かっこいいところを見せたい!』と主張する。

 結局、少しだけ力を加減してパンチした。

 表示された数字は、男子としてはまあまあだが、女子たちからは『すごい!』と感嘆の声があがった。

「悠真、強いんだね!」

 菜々子が目を輝かせる。

「ああ、うん。まあね」

 この単純な競争は、意外にもみんなの緊張を解きほぐしたようだ。


 パンチングマシーンで盛り上がった後、悠真はみんなを連れて、少し奥にある景品ゲームのコーナーへ移動した。

「わあ、カワイイぬいぐるみがいっぱい!」

 恵美の声が弾む。

 UFOキャッチャーには、当時人気のキャラクターのぬいぐるみが並んでいた。

「これ、取れるかな?」

 純美が機械の前で首をかしげる。

「やってみる?」

 悠真が100円玉を出すと、純美は嬉しそうにうなずいた。

 レバーを操作して、クレーンを動かす純美。慎重にぬいぐるみを狙うが、なかなかうまくいかない。

「あー、惜しい!」

「私もやってみる!」

 美咲が交代し、今度は別のぬいぐるみを狙った。

 6人の女の子たちが次々と挑戦するが、なかなか景品は取れない。

「悠真、やってみて!」

 凪咲が期待のまなざしを向ける。

 ここでオレ? ?

 予想はしていたが、悠真は苦笑いしながらコインを入れた。

 前世でもUFOキャッチャーは得意ではなかったが、ここで格好悪い姿は見せられない。

 慎重にレバーを操作し、クレーンをぬいぐるみの上に持っていく。

 グッとつかんで持ち上げる瞬間、微妙にずれたが、なんとか景品口に落とせた。

「やった! すごい!」

 女の子たちから歓声が上がる。

 取れたのは小さなクマのぬいぐるみ。悠真はそれを手に取って、6人を見回した。

「誰にあげ……いや、どうしようか?」

 この質問は危険だった。

 6人の視線が悠真に集中する。

「あ、そうだ! 今度はみんなでジャンケンしよう。勝った人にプレゼントするよ」

 悠真の提案に全員が納得したが、その結果、菜々子が勝った。

「やった! ありがとう、悠真!」

 菜々子はうれしそうにぬいぐるみをなでる。

 他の子たちは少し羨ましそうだが、ジャンケンの結果なので文句は言えない。

 ゲームセンターで1時間ほど過ごした後、次の目的地へ向かう。


 前世で、じゃあどうせいっちゅうねん(なぜか関西弁)! のケースは多々あった。

 男(オレ)は理性的に考えて、解決方法を探したり、誰もが納得はしなくても、妥協案を探ろうとする。

 女とこれを話すとウキーッっとなる。

 説明が難しいが、個人差はあるとしても、やっぱり女は子供のころからそうなのか?


「そろそろお昼の時間だね」

 礼子が時計を見ながら言った。

「お腹空いた!」

 凪咲が正直に言うと、みんなから笑い声が上がる。

 ランチはハンバーガー。

 金銭的な面もあるが、嫌いな人がいないのも選んだ理由の1つだ。

 目的地は、四ヶ町を横断する道に出て少しだけ進むとあるバーガーショップだったが、お店のサイズはキッチンカー程度。

 悠真は忘れていたが、以前食べた佐世保バーガーショップはテイクアウト専門で、しかも行列ができている。

 なので、去年できたばかりのマクドナルドに変更。


 日曜日で混んでいたが、それでもなんとか1つのテーブルを囲んで座れた。

 悠真が端の席に座り、隣には自然と美咲が座る。その隣が礼子で、向かい側には凪咲と純美が座っている。

 菜々子と恵美は別の席になってしまった。

「うーん……」

 悠真は考えている。

 大きなテーブルは床に据え付けてあって動かせないが、近くにある2人用のテーブルは動かせる。

「すみませーん。後でちゃんと戻しますし、はじっこなので通行の邪魔にもならないと思うんですけど、テーブル寄せてもいいですか?」

 悠真は店員に声をかけ、許可を得ると、近くにあった2人用のテーブルを自分たちのテーブルの横に寄せた。

 これで全員が同じテーブルを囲める。

「よし、これでみんなで座れるね!」

 悠真の言葉に、菜々子と恵美もニコニコしながら移動してきた。

 凪咲と純美の隣に並んで座ると、テーブルを挟んで悠真たち3人の向かいに4人が並ぶ形になる。

 注文を終え、ハンバーガーやポテト、ドリンクが運ばれてくると、みんなは待ちきれない様子で食べ始めた。

「おいしい~!」

 美咲が頬を膨らませながら言う。

「うん、佐世保バーガーもいいけど、たまにはマクドナルドもおいしいね」

 純美も笑顔でうなずく。

 凪咲は黙々とハンバーガーにかぶりついている。

 うーん、やっぱり中学生。

 色気より食い気なんだろうか?

 そんな悠真の脳内だったが、菜々子と恵美は、少し遠慮がちにポテトをつまんでいた。

 いや、好きな男子(オレ)の前でがっつきたくはないんだろう。

 人間は思いたいように脳内で事実を変換する。

 悠真の搭載している51脳は冷静だが、13脳が都合良く変換しているのだ。

「菜々子、恵美、どう?  おいしい?」

 悠真が尋ねると、2人は顔を上げた。

「うん! おいしい~!」

 2人の素直な反応に、悠真はうれしくなった。

 礼子は落ち着いて、ゆっくりとハンバーガーを食べている。

 時々悠真の方を見てほほえむのだが、他の女の子たちには少し気になるようだった。特に美咲と凪咲は、その度にチラチラと礼子を見ている。

 食事をしながら、午後の予定を確認した。

「次は玉屋の遊園地だよね?」

「その次は美術館ねー」

 菜々子が期待を込めて言うと、礼子が確認した。

「最後は動物園と水族館だな」

 悠真はスケジュールを整理したが、午後に遊園地と美術館と動物園と水族館……。


 ちょっと厳しいか?

 脳裏に不安がよぎった。

 51脳は完全にヤバいモードに入っている。

 五峰に戻るフェリーの最終は17:05だから、少なくとも15~30分前には戻っておきたい。

 遅れると、大事故になる。

 食べ終わって玉屋にいって1時間? それから美術館で1時間?

 近いからいいが、美術館はまだしも、遊園地は1時間で終わるか?

 今は12時36分。

 45分に食べ終わって移動時間15分として、13時から美術館、14時までみて、その15分後に玉屋。

 終わるのが15時15分。

 仮に15時30分のバスに乗って動物園にいったとしても、到着は16時。

 17時5分のフェリーには間に合わん。

 どう考えても無理やん。

 チーン。


「あのさ、ちょっといいかな?」

 悠真は午後のスケジュールが無理だと、思い切って全員に告げた。


「えー! なんで?」


 次回予告 第81話 (仮)『どう考えても無理! じゃあどこにいく?』

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